ホタル百科事典/ホタルの生態2-4a.
ゲンジボタルの幼虫は、背光的で光を嫌います。河川においては、短い脚を使って水底に穴を掘って潜っていくことはできませんので、小さな窪みを見つけて小石の中に頭を入れ、小石の隙間をぬうように潜っていることもありますが、大抵は浮き石の下に隠れています。浮き石とは、2重3重に重なり合っている状態を言います。そして中でも丸くなく平たいもの、白くなく色の濃いものを好むようです。或いは、飼育下で、底に何も敷かない水槽に孵化幼虫を放しますと、互いに集まりコロニーを作ってしまいます。昼間は水底の浮き石の下に潜ってじっとしていますが、夜になるとそこから出てきて餌を求めて歩き回ります。基本的に夜行性ですが、薄暗い日であれば日中でもしばしば活動しています。
ゲンジボタルの2齢幼虫(孵化後約1ヶ月目)
ゲンジボタルの幼虫は、生息地の川底全域で生活しているのではありません。水深では10cm〜50cm程度の場所で、流れが急ではなくある程度流れがある場所に多く生活しています。淵にはほとんど見ることが出来ません。淵と瀬の中間から瀬の近くにかけてであり、そうした所に隠れ場所となる浮き石が多く存在しているのです。これは、多様な流れがつくりだした川底環境で、ゲンジボタルの幼虫はたいへん贅沢な生活場所を要求しているのです。一方カワニナにおいてはその生息範囲は広く、流れの緩やかな場所から速い所、浅瀬から深みまで、また川底が泥でも礫でも生活しています。つまり、ゲンジボタルの幼虫は、カワニナの生活圏全体のごく一部で生活していることになります。ですから、幼虫がどんなに多くいても、カワニナが食べ尽くされることはありません。 下の写真は、渓流の生息地(都内D地区)ですが、(P)は淵、(W)は平瀬、(f)は早瀬になっています。生息地の多くの上中流域は、蛇行点に淵があり、それをつなぐ直線は瀬になっています。川原は左右交互に存在し、岸の近くにはよどみが存在します。
ゲンジボタル幼虫の生息範囲
(P)の淵には、沈み石(はまり石)が多く、沈み石は、石の底部が砂泥に埋まってしまっています。(f)の早瀬部分では浮き石は多くありますが、流れがとても速く幼虫が隠れることが出来ず、生活には適していません。黄色の円で囲んだ場所(W)は、流れも中庸で浮き石も存在しており、幼虫が多く見られます。 しかしこのような場所は、孵化したばかりの幼虫が水中に入った場所と一致はしていません。その河川のどの場所に産卵するのかにもよりますが、孵化幼虫が水中に入った所が、必ずしも生息に適しているとは限りません。孵化して水中に入った時に、その場所にある程度の水流があれば1齢幼虫はたいてい下流に流されます。そして、浅瀬や川岸の茂み等に辿り着きます。2mmにも満たない小さな幼虫は、ちょっとした石の間にも隠れることができます。またこうした場所は、ちょうどカワニナの稚貝の生息場所にもなっています。そして幼虫は成長するにつれて川底を少しずつ移動すると考えられます。最終的に終齢幼虫では上陸時期になると岸の近くに移動します。
淵(P)は、流れは緩やかですが、沈み石(はまり石)が多く、石の全部または、一部分が砂泥に埋まっているために、ゲンジボタルの幼虫は、石の下に隠れることができません。
早瀬(f)部分では浮き石は多くありますが、流れがとても速いので、幼虫は生活することができません。
流れの早さが中庸である平瀬(W)には、沈み石だけでなく、浮き石も存在しています。幼虫の絶好の住み場所となります。
ゲンジボタルの幼虫
一般的に渓流に生息する水生昆虫は、流下します。これは、河川の洪水時だけではなく、平時の状態においても認められる一般的な現象ですが、ゲンジボタルの幼虫の場合も流下が見受けられます。洪水時では強制的に多くの幼虫が流されることがありますが、孵化した幼虫の他、小さい幼虫でも自ら丸くなり水面に浮いて移動することがあります。特に生息する場所の環境が適さない場合に多く見られます。
通常、ゲンジボタルの成虫は渓流全域ではなく、部分的にまとまって発生しますが、発生地域より下流部分に点々と数匹が発生している場合もあります。これは、流下した幼虫がその場所で発生したものと思われます。これとは逆に、幼虫の溯上は確認できません。ただし、成虫は遡上します。
ゲンジボタルの幼虫は、希に三面コンクリートの水路にも生息していることがあります。一般的に三面コンクリートの水路は、農業用水路として管理されていることが多く、底はきれいにされているのですが、ゲンジボタルが生息している水路では、幼虫は所々に溜まったゴミや石を隠れ場所としています。決してホタルにとって安定した環境ではありませんが、カワニナの生息数や水質、周辺環境が安定していれば、生きていける場合もあります。
ゲンジボタルの幼虫の形態は、上の写真と図に示す通りですが、脱皮ごとに前胸部分の模様が変化していきます。ゲンジボタルの幼虫の場合、1齢幼虫は前胸背面の模様が2つに分かれていますが、2齢幼虫以降では1つになり、3齢幼虫以降では模様も体色もほとんど変わらなくなります。ヘイケボタルの幼虫の場合は、各齢ごとに前胸背面の模様が変わります。詳しい図は形態の項を参照してください。
幼虫の体は、非常に柔らかくまた弾力があります。刺激を受けると丸くなりますが、それをつまんでみますと弾力があるのが解ります。しかし幼虫が伸びたところで、体の中間をピンセット等でつまみ上げると、体が折れたようにもなります。水中では、非常に狭い隙間にも入り込んでいることがあります。また、キチン質の前胸部さえ通れば、ちいさな穴でも通り抜けることができます。それでいてかなりの力持ちでもあります。直径5cm以上もある石が、その下に潜っている幼虫によって動いているという光景をしばしば観察することができます。
ゲンジボタルの幼虫は、胸部にある3対の脚と尾脚を使って歩行します。尾脚にはカギ状の組織があり、石に固定することができます。まず、尾脚を石に固定し、体をある程度伸ばすと尾脚を石からはずして前の方に引き寄せて、再び石に尾脚を固定するといった方法で歩行します。シャクトリ虫の歩行に似ていますが、シャクトリ虫ほど体をくの字には曲げません。
歩行中に障害物に当たると、頭部を僅かばかり引っ込める仕草をします(ホタル科の幼虫に見られる特徴です)が、このような行動は甲虫類の幼虫ではひじょうに珍しいと言われています。
ゲンジボタルの幼虫はひじょうに水中生活に適しており、腹部各節の発達した8対の鰓によって効率的に水中の酸素を取り入れています。カワニナを食べている時は、消化吸収のために鰓をピンと張り、より多くの酸素を取り込むようにしています。
また、鰓の構造は気門も備えており、陸地においても呼吸できるようになっています。
ゲンジボタルの幼虫は、淡水性巻貝のカワニナを食べます。幼虫は自分の体に合った大きさのカワニナを捕らえて、その肉を溶かして食べます。捕らえるといっても、カワニナに向かって歩いてきて攻撃するというものではなく、水中を歩いているうちに偶然出会った場合にのみ、食らいつくことが出来ます。それが大きな獲物だった場合は、時々食べようとしますが、たいていはカワニナの力に負けてしまい、すぐにあきらめます。しかしながら、それがちょうどいい大きさの獲物であれば、その肉に食らいつき、そのまま後退りしていき、小石の下に体を完全に隠してから食べます。食べると言うよりも、消化液を出して口外で肉片を溶かしてすするという方法です。また、幼虫はこの肉汁が水中に拡散しないように、頭を突っ込み体で栓をします。人工飼育で小さな幼虫に対して稚貝が提供できない時に、よくカワニナの肉片だけや殻を砕いたものを与えることがありますが、この場合は幼虫が沢山集まり食べてはくれますが、肉汁が水中に拡散しやすく、結果として成長度合いが鈍いという結果も出ています。幼虫が自分の体に合った大きさのカワニナを捕らえるということは、体で栓ができるかどうかもポイントになっている思われます。
幼虫はカワニナを捕らえると1日から2日かけて食べますが、一生のうちで何個のカワニナを食べるのでしょうか。自然界で調べることは不可能ですが、飼育実験によると一匹のゲンジボタルの幼虫が蛹になるまでに、殻の長さが2ミリから25ミリくらいのものまでのカワニナをおよそ24個食べたという観察報告があります。(矢島・荻野)例えば、その場所に100匹のホタルが生きるためには、幼虫が食べるカワニナだけで約2400個必要になる計算ですが、カワニナの稚貝は、様々な原因で殻の直径が1ミリ大きくなるごとに60パーセントずつ死んでいき、2年後には3パーセントしか生き残れないという報告もあります。こういったことも考えると、100匹のホタルが飛ぶためには、80万匹以上のカワニナの母集団が棲息していなければならないと言えます。(参照:ホタルに関する調査研究レポートカワニナの個体群動態とゲンジボタル生息との関係について)
カワニナを食べる幼虫
カワニナを食べる幼虫
幼虫の糞
陸生のホタルは、オカチョウジガイやウスカワマイマイ、ミミズ等を、水生のヘイケボタルでは、タニシやモノアラガイ、場合によってはミミズやオタマジャクシ等を食べていますが、ゲンジボタルの幼虫は、自然界においては、主にカワニナを食べています。
ゲンジボタルの幼虫の食性は、ゲンジボタルの幼虫の生息環境には、元来カワニナ以外の巻き貝が生息していない、或いはカワニナが多数生息していたことが決定したとも言えます。しかしながら、ゲンジボタルの成虫が多数発生する場所においてカワニナの生息数が少なかったり、或いはほとんど生息していない地区もあります。では、一体何を食べているのでしょうか。人工的にカワニナ以外のものを与えた実験は多くの研究者が行っています。人工飼育下で、エビやガの幼虫を捕食するゲンジボタルの幼虫が観察されていますが、これらを食べて成長するのかは定かではありません。私も1978年に行った実験(飼育日誌に記載)では、イカやシジミを与えましたが、まったく食べませんでした。その後の実験でも、タニシ、モノアラガイ、レッドスネールなどを与えてみましたが、食べないか、食べても成長せずに死んでしまいました。体外消化はできても吸収できないのか、或いは成長に必要な栄養素が異なっているのかも知れません。しかしながら、昨今、ゲンジボタルの養殖用として輸入された外来種であるコモチカワツボが各地の自然河川に広まっており、コモチカワツボを食べるゲンジボタルの幼虫が神奈川県や宮崎県で観察されています。また、富山県在住の中毅士氏は、自然河川においてサカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫とミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫を観察しています。
サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫(中 毅士 氏撮影)
ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫(中 毅士 氏撮影)
これまで、ゲンジボタルの幼虫は、特定の餌を捕食しないと成長できない狭食性、または単食性であると考えられてきましたが、生息地によってはカワニナ以外のものも食べていることが明らかになってきました。ただし、これらは主食ではないと思われます。(参照:ホタルに関する調査研究レポートゲンジボタル幼虫の食性に関する考察)その後、ゲンジボタルの幼虫にミミズだけを与えて飼育する実験を行ったところ、カワニナを与えた場合に比べて成長が鈍いものの、上陸、蛹化、羽化して成虫になるという結果になっています。ゲンジボタルは、ミミズだけで成虫になるのです。
ゲンジボタルの幼虫は終齢(6齢)になるまでのおよそ10ヶ月で5回脱皮をします。ほとんど9割くらいの幼虫が5回の脱皮ですが、幼虫によっては、6回脱皮(7齢)するものもいます。こういった幼虫は、小さい卵から生まれた幼虫の場合が多く、また脱皮の回数は生まれた時から決定されているようです。更には、各齢の成長度合が小さいという特徴があります。
幼虫の脱皮は早いもので10分、遅いものでは1時間くらいかかります。脱皮の様子を観察すると、幼虫はまず礫と礫の間に体を入れ、動かなくなります。そして棒のようにまっすぐになり、また幾分膨らんでみえます。すると頭部から外皮が割れて乳白色の幼虫が見え始めます。脱皮が進むに連れて外皮を後方へ脱ぎ捨てます。脱皮殻は幼虫とほぼ同じ形を保っています。脱皮したばかりの幼虫は、しばらくの間、白色の半透明の体で、表皮を通して体内の白色の小さな脂肪粒が見えますが、数時間すると背面の模様と前胸部の模様(いずれもキチン質)が見えてきます。1齢幼虫は1.5ミリでしたが、脱皮を繰り返し終齢幼虫では25ミリ以上にも成長します。脱皮は、エクダイソンや幼若ホルモンなどの様々なホルモンが関与しており、それらのホルモンのバランスに変化が生じ、複雑な連鎖変化によって脱皮が誘発されますが、ある一定の体重にならないと脱皮しないようです。カワニナを沢山食べて肥えた幼虫は早く脱皮し、カワニナを少ししか食べられない肥満度の小さな幼虫は、次の脱皮まで期間を要するようです。
ホタルの幼虫の成長は、同じ環境に生息していてもかなりのばらつきが生じます。また人工飼育下において特に過密状態であれば顕著に現れますし、1匹のメスが産んだ卵から孵化した幼虫だけでも、その中で違いが現れます。早いものではその年の10月に20ミリに達するものもいれば、12月に終齢と思われる大きさになるものもいます。しかし一方では、12月にまだ4mm以下であったり、翌年の上陸の時期になっても10ミリに達せず、結局もう1年水中ですごすものもいます。幼虫によっては、上陸するまでに3年を要するものもいます。こういった成長のばらつきは、色々な場面において種の存続に都合が良いのです。例えば、すべてが1齢幼虫であれば、カワニナの稚貝も相当な数がいなければなりませんが、大きな幼虫が混在していれば、1齢幼虫は大きな幼虫が食べている大きなカワニナを一緒になって食べることができます。飼育下においてはしばしば観察することができます。また、大雨で川が増水した場合では、小さな幼虫ほど礫の奥まで隠れることができ、流されにくくなります。生息環境の季節的変化に伴う様々な事象に対しての防衛であると言えます。ヘイケボタルの場合は、成長のばらつきはほとんどありません。
カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫
ゲンジボタルの幼虫や他の水生昆虫の齢期の決定にあたっては、幼虫の体長よりも前胸部の板長を基準に行います。これは、キチン質である前胸部は脱皮ごとに段階的に成長を行い、同一齢期内ではほとんど増大しないという特徴があるからです。
グラフ.各齢と前胸部の長さ
グラフ.各齢と前胸部の長さの分布(1975.furukawa)
上の2つのグラフは、各齢の幼虫の前胸部の長さを表していますが、各齢期とも長さにばらつきがあるのが解ります。その長さのばらつきは、齢が進むに連れて大きくなっていきます。これらは雌雄による違いと考えられ、一般的に雌の方が大きい幼虫になっています。
グラフ.孵化後の経過月と各齢の分布(1978.furukawa)
上のグラフは、孵化した幼虫のその後の成長度合いを孵化後からの経過月と各齢期の分布によって表したものです。孵化後8ヶ月を経過してもなお3齢・4齢の幼虫が、およそ20%いることが解ります。この幼虫は、翌年に成虫となるわけですが、これらの割合はカワニナの生息数や幼虫のカワニナ摂取量と大きな関係があると思われます。幼虫の数を上回る数のカワニナが生息していれば、成長のばらつきは少なくなる傾向にあります。ただし、どんなにカワニナが豊富でも成長しない幼虫が数%存在します。
また、1月にすでに終齢幼虫となったものは、その後ほとんどがメスの成虫となったことから、メスの幼虫はオスにくらべて比較的成長が早く、カワニナが豊富であれば成長率はより大きくなると考えられます。
しかし、これはあくまで飼育環境における結果です。自然河川において、成長の違う幼虫の分布割合やある特定の幼虫の成長度合いを追跡調査することは不可能です。ただし、自然生態系においても、幼虫の成長のばらつきがあることを確かめています。
ゲンジボタルの幼虫は、休眠はしません。昆虫の休眠とは、内分泌機構の支配による自律的な発育休止状態のことをいいます。同じ種内のそれぞれの個体が、同じ発育段階で発育を停止もしくは抑制する状態です。低温など外界要因の作用による単なる活動休止とは明確に区別されます。多くの昆虫は、冬などり不適当な時期を、休眠という手段で活動を停止して過ごします。昆虫の休眠を誘引する因子として、日長 (光周期) 、温度などがありますが、ゲンジボタル幼虫の成長・発育は、日長や積算温度とも関係がなく、ある時期においても様々なサイズの幼虫が存在していることと、水温が摂氏2度にもなる冬期の自然河川においても、積極的に動き回り、カワニナを食べて成長していることから、休眠はしないと考えられます。こういった場所ではカワニナも季節を問わず活動しています。しかしなにがら冬期にカワニナが砂泥の中に潜ってしまうような所では、幼虫はカワニナを食べることが出来なくなったり、食べる量が極端に少なくなる場合もあります。このような場合は発育を休止し、石等の下でじっとしています。ゲンジボタル幼虫は絶食に極めて強く、2ヶ月間も耐えた例があります。以下に、幼虫がカワニナなしでどのくらい生きるのかという実験報告を示しておきます。
生存日数(最短・最長) |
平均日数 |
|
1齢(孵化後) |
22−54 |
35.6 |
2齢(脱皮直後) |
36−117 |
71.8 |
3齢(脱皮直後) |
54−125 |
84.4 |
4齢(脱皮直後) |
68−164 |
111.2 |
表.幼虫の絶食と死亡までの日数(20℃)
ゲンジボタル幼虫では休眠は見られませんが、クメジマボタルや陸生ホタルの幼虫は、冬期に休眠することが観察されています。またヘイケボタル幼虫では、生息環境によって、例えば冬に水が少なくなる水田等においては、休眠ではなく休止することが観察されています。
昆虫の休眠は、悪環境をやり過ごすという物理的環境の回避の他に生物的悪環境の回避、例えば特定の時期に食べ物が無くなる、天敵が多い、競争種が多く発生する等を避けることや集団内の繁殖時期を一致させる意味もあります。特に繁殖時期の一致においては、日長等の条件により特定の発育段階で休眠が生じ、かつ休眠解除も一定の条件で生じることによって、ある時期に揃って成虫となり、個体群密度が低い場合でも交配相手を容易に見つけることができるわけです。ゲンジボタルの場合は、冬期においても安定した環境にあり、また蛹化のための上陸行動に一定の基準(次項で解説)を設けているので、休眠しなくても生育が可能で、かつ発生時期を揃えることができるのです。
ゲンジボタルの幼虫の外敵はこれまでほとんど確認されていませんでした。飼育下で幼虫の入った水槽に金魚、ヤマベなどを同居させてみましたが、最初は幼虫を口にしてもすぐに吐き出してしまいます。幼虫は、強い刺激を受けると体を丸めて、各節から分泌線を出します。この分泌線からは極めて特異に臭いが放たれることから、外敵から身を守っていると考えられます。しかしながら、多摩動物公園昆虫園の荻野氏は、サワガニ、オニヤンマのヤゴ、ヘビトンボの幼虫はゲンジボタルの幼虫を捕食すると報告しています。
それよりも環境の変化(例えば水質の悪化)によって死亡することのほうがはるかに多いのです。また、弱った幼虫は細菌類やせん虫類に侵されることが多く、更にはある日突然体が水分で膨れ棒のようになって死亡するという原因不明の病気(細菌におかされてのことかも知れない)によって死亡することもあります。これらは、飼育下においてしばしば観察されます。