ホタル百科事典/ホタルに関する調査研究レポート

東京にそだつホタル

ゲンジボタル幼虫の食性に関する考察

2014年1月1日

ミミズを食べるゲンジボタルの幼虫 -中 毅士 氏による観察から-

本レポートは、富山県黒部市在住の中 毅士 氏(「里山 ホタルの会」の会員)観察による「ミミズを食べるゲンジボタルの幼虫」について報告し、考察するものである。

はじめに

  これまで長い間、ゲンジボタルの幼虫は、特定の餌(カワニナ)しか捕食せず、またその餌(カワニナ)でなければ成長できない単食性であると言われてきたが、ゲンジボタルの成虫が多数発生する場所において、カワニナの生息数が少なかったり、或いはほとんど生息していない地区があることから、10年ほど前からカワニナ以外のものを食べている可能性が考えられてきた。実際に、神奈川県や宮崎県では、ゲンジボタルの養殖用として輸入された外来種である巻貝「コモチカワツボ」で繁殖もしている。また、人工飼育下では、エビやガの幼虫を捕食する様子も観察されているが、自然河川において巻貝以外のものを食している様子は、例がなかった。しかしながら、富山県黒部市在住の中 毅士 氏によって、2013年11月にゲンジボタルが多数生息する自然河川において、「サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫」と「ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫」の様子が観察され、写真とビデオに収められた。

ゲンジボタルの生息環境

  ゲンジボタルが生息しているのは、富山県黒部市内の標高約120mの山間部で、雑木林、水路、水田からなる典型的な里山地形をなしている。幼虫の生息場所は、水田脇に設けられた、幅約60cm、深さ約40cm、水深約10cmのU字ブロックの農業用水路で、流速は5m/minと緩やかである。底質は、泥質でほとんどの部分が落ち葉等の堆積物で覆われている状況である。
  この水路には、ゲンジボタルの幼虫の他、ヘイケボタルの幼虫、これらの餌となるカワニナとサカマキガイが多数生息している。

ゲンジボタルの生息環境 ゲンジボタルの生息環境
(中 毅士 氏撮影)

サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫

  中氏が10月6日よりのべ100回に渡って巡回観察をしたところ、この場所に生息するゲンジボタルの幼虫は、主としてカワニナを食することが分かったが、2013年11月4日にサカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫が観察された。
  ゲンジボタルの幼虫は、小石や落ち葉等にへばり付いているサカマキガイに近づき、サカマキガイを捉えると落ち葉の下に引き込んで食べていたり、自身は泥の中に潜って食べている。これまでに、サカマキガイの捕食は、2例観察されている。

サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫 サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫
(2013.11.04 中 毅士 氏撮影)

サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫 サカマキガイを捕食するゲンジボタルの幼虫
(2013.11.04 中 毅士 氏撮影)

ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫

  同地区の水路では、下の写真のように死んだミミズの死骸を食べるゲンジボタルの幼虫も観察されている。カワニナが多く生息し、カワニナを捕食することが簡単にできる環境にも関わらず、ミミズの死骸を長時間(観察は5時間)に渡って食していたという。ゲンジボタルの幼虫は、エビやガの幼虫等を食する観察例においても死骸であり、この場合も死骸であることが興味深い。

ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫 ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫
(2013.11.16 中 毅士 氏撮影)

ミミズの死骸を食するゲンジボタル幼虫とカワニナを食するゲンジボタル幼虫 ミミズの死骸を食するゲンジボタルの幼虫とカワニナを食するゲンジボタルの幼虫
(2013.11.16 中 毅士 氏撮影)

考察

  ゲンジボタルの幼虫が、自然河川においてサカマキガイとミミズの死骸を食べている事実は過去に例がなく、たいへん貴重な観察結果である。冒頭でも述べたように、ゲンジボタルの幼虫は、コモチカワツボやエビやガの幼虫を食していることが分かっているが、今回の観察により、ゲンジボタルの幼虫は、カワニナしか食べない単食性ではないことが確実に証明された。陸生のホタルは、オカチョウジガイやウスカワマイマイ、ミミズ等を食べて成長し、水生のヘイケボタルでは、タニシやモノアラガイ、ミミズやオタマジャクシ(これらの場合は死骸)等を食べて成長しているが、この地区には、カワニナが多数生息し、ゲンジボタルの幼虫はカワニナも食していることから、この観察結果からは、「食べている」という事実だけで、サカマキガイとミミズの死骸が成長の助けになっているかどうかは分からない。また、観察例が少ないことから偶然という可能性も考えられる。しかしながら、ゲンジボタルの成虫が多数発生するにも関わらずカワニナがほとんど生息していない他地域もあることから、必然の可能性もあり、成長の助けになっていることも考えられる。
  今後は、地域特性も踏まえて、これら行動が頻繁に行われているものなのか観察する必要があろう。更には、同地区の幼虫を持ち帰り、サカマキガイやミミズの死骸だけで成長するのかも実験する必要がある。

参考文献


BACK[ミヤコマドボタル] NEXT[ホタルに関する調査研究レポート

ホタルと美しい自然環境を守りましょう。 / Copyright (C) 2001-2018 Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.