ホタル百科事典/ホタルの生態2-2.

東京にそだつホタル

ホタル成虫〜産卵

ゲンジボタル成虫の活動

ゲンジボタルの発生時期

  東京地方で、ゲンジボタル(Luciola cruciata Motshulsky)の成虫が始めて飛び始めるのは、平均して6月10日頃からです。この頃はまだ数も少なく、飛んでいるのはオスばかりでメスが現れるのはだいたい10日ほど遅れてのことです。発生数もしだいに増え、ピークは平均すると7月2日頃になります。
 ただし、発生期間やピークは、生息地ごとに相違が見られ、また同地区においても、その年の発生は、上陸の日からの気象条件(有効積算温度)に大きく左右されています。

ゲンジボタルの日周活動

  成虫は、昼間は川岸にある雑木林の日の当たらない涼しい葉陰で休んでいますが、19時30分を過ぎる頃になると、ポツポツと光始めます。(ただし、光り始める時間は、その場の物理的環境によって違いがあります。およそ、照度が0.1lux以下になる時刻に光り始めます。また、日中でも、小雨の降る薄暗い日では、風等で葉が揺れたりすると、弱く発光することがあります。)
 成虫の活動時間はほぼ決まっています。ただし、この活動時間は、西日本と東日本のゲンジボタルでは大きく違っており、さらに、東日本の東京都内でも、発生地区によって違いがあります。例えばある地区では、羽化直後のオスの成虫は、午後7時半から午前2時まで、のべ150分活動(発光しながら飛び回る)し、羽化後3〜7日になると、活動は2回に分かれ、第1のピークは午後8時から9時で10時頃には活動を休止します。そして、第2のピークは午前0時から4時過ぎで、午前2時頃が活発になります。この、のべ活動時間はおよそ210分です。羽化後8〜15日の成虫は、2つのピークがつながって午後11時頃にも活動を続け、のべ活動時間は350分。羽化後16日以降になると、ピークは1つで午後10時頃がもっとも活発で、午前2時過ぎには活動をやめてしまいます。のべ活動時間は150分くらいです。(矢島 1978)
  また、違う地区では、午後7時半から10時頃まで活発に飛び回り、その後は葉の上で時折弱く発光するだけというところもあります。
メスはオスに比べて、飛ぶより歩き回る時間が長く、のべ活動時間は羽化後7日くらいまではオスの2倍以上です。しかし8日くらいを境に急に活動時間が短くなり、のべ活動時間は30分くらいです。また前夜半はオスがメスの3倍ちかく飛びって相手を捜し、後夜半になると逆にメスがオスの3倍以上も飛び回り、産卵場所を探します。飛びまわると言っても、川面すれすれを下流から上流へ向かって直線的に飛ぶことが多いです。

ゲンジボタルの活動条件

  上記の活動は、天気・天候(気象条件)によっても大きな違いが見られます。ゲンジボタルが最も活発に活動する気候条件は、気温が高く月明かりのない曇った日で風のない夜と言われていますが、生息地の物理的環境によって違います。開けた谷戸田などでは、上記のような日に沢山飛びますが、渓流の周囲が森林で覆われている生息地では、気温18度、快晴で風の強い夜でも沢山乱舞しています。(ただし、森林で覆われているために渓流上には風がありません。)
  また、ホタルは少々の雨が降っていてもかなり活動しています。しかし、強い雨の日や気温が15度を下回るような寒い日は、飛び回らず藪の中で静かに光っているだけです。
基本的に、変温動物であり、光をコミュニケーションツールとして利用するホタルは、

  1. 活動出来るある一定の温度以上で、
  2. 飛ぶことの出来る空気の状態と、
  3. 他のホタルが発光した光を確認出来る暗さが

重要な活動条件と言えます。

ホタルの発光活動時刻
グラフ. 発光活動時刻 (2001.あきる野市)

ホタル発光の秘密

  ホタルの発光については古くから注目され、その発光機構に対する研究は数多く報告されています。発行器は発光細胞と光を反射する反射層からなっており、また発光器の中へは血管と毛細気管が入り組んでいます。発光細胞はルシフェリンという発光物質を持っており、この物質が酵素ルシフェラ−ゼの働きで酸化する時に発光するということがわかっています。この発光原理は、電球やロ−ソクのそれと違い、熱や二酸化炭素の発生がなく、実に全エネルギーの98%を光りエネルギーとして放出できるものです。詳しいメカニズムについては、こちら発光器の構造で解説しています。

  ホタルの発光は、おそらく明滅することによる雌雄の合図ではないかと考えられていますが、発光パターンはとても複雑で複合的で、詳しいことは全く解っていません。オスのホタルは光りながら飛び回り、川辺の草にいるメスを探しますが、いくつかの面白い行動をします。例えば、飛んでいるオスは、止まって光っているものに近づいて行きます。それがオスのホタルであろうとも同じように近づいて行きます。近づいた後、それがオスと解るとすぐに離れますが、メスであればしばらく何らかの交信がされます。こうしていると、飛んでいるオスが何匹もそこに飛んできて1つのコロニーになったりします。あるいは、飛びながら2匹が空中で接近したり、川面に写った自信の光に向かって接近したりもします。これらの行動は、生息地で注意深く観察しているとよく見られます。
また近年、西日本と東日本とでは、明滅の周期がかなり違うことがわかってきました。ゲンジボタルの場合、何匹かが集まって明滅する時の光ってから次に光るまでの平均時間が、関西型がおよそ2秒、関東型がおよそ4秒、中部地方では2秒、3秒、4秒の明滅周期になっていると言われています。そしてこの明滅は、ほとんど同調したリズムでつづく同期明滅という特異なものであり、特に活動最盛期のオスに顕著にみられます。ゲンジボタルの雌雄の合図である発光においてもっとも重要と考えられるのは、このオスの集団同期明滅です。西日本では集団同期明滅の規模も大きく明瞭ですが、ここ東日本では小規模で同期性も悪いです。この集団同期明滅は、発生後期になるに従い乱れ初め、また発生最盛期であっても活動時間が終わりになるにつれて乱れるようになります。特に東日本では同期明滅の時間はとても短いです。
 西日本と東日本のゲンジボタルは、明滅周期の違いだけでなく生息環境や行動までも大きな違いが見られます。これらについては、後述させていただきます。

発光するホタルの写真   ホタルの乱舞する写真
発光するゲンジボタルのオス

ホタルの外敵

  成虫の外敵は、クモ類であると言えます。クモの巣にかかったホタルはすぐに糸でまかれますが、それでもホタルは明滅発光を繰り返します。この光に誘惑されて別のオスがまたクモの巣にかかります。
 ただし、クモはあくまでホタルの捕食者であり、クモに食べられることによってホタルの数が減少してしまうことはありません。ホタルが生息する豊かな生態系の中では、多種多様の生物が多く共存しています。ホタルが絶滅してしまうほどの影響を与えるホタルの最大の外敵・天敵は、私たち人間であるのかも知れません。
 ホタルは、指で強くつまむと体の特定の場所から粘液質の体液を出します。この粘液は、時間が経つと堅くなり非常に不快な臭いを発します。テントウムシも黄色い臭い体液を出して外敵から身を守ることが知られていますが、ホタルの場合も同じようなことと解釈できます。北アメリカにはおよそ200種類のホタルが生息していますが、その中には強い毒性をもったホタルも生息していると言われています。そのホタルを食べたトカゲなどは死んでしまうという報告があります。また、北アメリカのフォツリスというホタルは、他のホタル、例えばフォチヌスといホタルの発光パターンを真似て誘引して食べてしまうというものもいます。

参考:世界のホタル

ホタルの交尾と産卵

  夜美しく光りながら飛び交っていたゲンジボタルは、午前4時頃になると草や木にとまて休み、夜が明けてあたりが明るくなってくると葉の裏などに隠れます。そして日が差し始めると、さらに涼しい日陰の葉裏などに移動します。生息地の川沿いにある比較的大きな木の枝の先の方にある葉を見ると、下の写真のように成虫がじっと休憩しています。捕まえようとすると、ぽろりと落ちてしまいます。これら葉の裏に止まっている成虫のほとんどはオスで、一方メスは、川沿いの低い茂みの中に隠れていて、なかなか見つけることはできません。

葉陰で休むホタルの写真  日中、木の葉の裏で休むゲンジボタル

ゲンジボタルの配偶行動

  メスはオスよりも10日ほど遅れて羽化してきます。雌雄の比率は、生息地や年によって比率は違っていたり、実際のところ自然界の生息地において正確に計測することは難しいのですが、基本的には1:1で、発生最盛期のオスとメスの比率は3:1と言われています。メスは、羽化後しばらくはあまり飛び回らず草や低い木の枝などにじっととまって光っています。午後8時頃になると葉影で休んでいたオスが光り始め、飛び立ちます。幾つかのブロックで川筋に沿っておよそ10mの範囲をゆっくりと飛び、何度も行ったり来たりします。時折5mくらいの高さを飛んだり、谷戸の端の雑木林の方まで300mほど飛んでいくものもいます。そして、草むらで強く光るメスを見つけると近づいていきます。1〜2mほど近づくと、ゆっくりとした飛び方になりそのままメスから約50cmのところに止まります。そして、そこからメスのところまで歩いていき交尾が始まります。しかし、中には交尾をせずにメスから10cmくらいに近づいたところで飛び立ってしまうオスもいます。このオスは、再び川の上を飛び回りメスを探します。川筋の数カ所ではメスが3〜4匹まとまって葉陰に止まっており、そこに数匹のオスが群がって小さなコロニーを形成している場合もあります。交尾は夜が明けても続けられ、日の当たらない葉陰などに移動します。交尾の時間は、15時間前後です。

交尾するゲンジボタルの写真  交尾をする雌雄(左側がメス)

  オスは光りながら飛び回り、メスは葉先で光るというのは既に述べましたが、葉先で目立つように光るメスは未交尾のメスで、既交尾のメスはオスが飛び回る時間帯は、茂みの中で静かに光ったり、歩き回ったりしています。
成虫は、基本的に小川の上流に向かって飛翔します。これは、特にメスで顕著で、これらは遡上飛翔と呼ばれています。増水などにより幼虫が下流へ流されるために、その分成虫が上流に向かうと考えられています。Roos(1957)この行動は、ゲンジボタルだけでなくカゲロウやトビケラなどの水生昆虫に広くみられますが、必ずしも上流に飛翔するとは限らず、下流方向にとんでいく場合もあります。

ゲンジボタルの飛翔速度・距離

  ゲンジボタル成虫の飛翔速度についてですが、地域によってもまた、行動パターンによっても違いがあります。例えば四国や九州の比較的大きな河川に生息しているゲンジボタルは、10m/secで飛ぶこともあります。関東のゲンジボタルでは、そんなに速く飛ばずだいたい0.5m/secくらいです。行動パターンでは(東京地方)、川の上や茂みの上でオスがメスを探している時は特にゆっくりと飛び(0.5m/secくらい)、川をあるいは生息地の湿地帯などを横断する時は、比較的速く(1.5m/secくらい)で飛びます。飛翔距離あるいは飛翔範囲にも地域差が確認されています。あきる野の生息地では、50m〜100mの範囲をテリトリーとしており、時折300mほど飛翔するものもいますが、他の地域、特に発生密度の低い(近親交配の危険性大)では、500mから時には1kmも移動するものもいるようです。

ホタルの飛翔範囲図説図.ゲンジボタルの飛翔範囲(2001.あきる野市)

コロニーを形成するホタルの写真写真 複数の雌雄の集団(コロニー)

ゲンジボタルの飛翔行動範囲

  ゲンジボタルの垂直方向の飛翔行動範囲を見てみますと、生息している物理的環境によって大きな違いがあり、およそ図のような3つのパターンに分けることができます。
  Aのように周囲が開けて木立等の茂みも少ない河川では、土手より下の河川上、及び川岸に茂った草上を飛翔します。Bのように河川の片側が斜面になっていて木々が大きく茂っている場所は、主に茂み側で飛翔し、河川上や反対側まで飛んでくることは多くありません。また、Cのような深い谷になっているような場所では谷全体を飛翔し、かなり高い所まで飛翔します。

ゲンジボタルの飛翔行動範囲図.物理的環境の違いによるゲンジボタルの飛翔範囲

ゲンジボタルの産卵行動

  交尾が終わるとメスは4〜5日後に産卵を始めます。この時期、メスは産卵場所を求めてあちらこちら飛び回ります。メスは初め川筋に沿って岸辺の水面近くを飛んできます。飛び方は、オスのようにふわりふわりと飛ぶのではなく、川面すれすれの高さを比較的一直線に飛びます。何度か往復したあと、適当な場所を見つけるとそこに止まり、コケを調べるように歩き回ります。しばらくすると、産卵を始めます。産卵をする場所は、川岸の水際の近くで、日中ほとんど日の当たらない所に生えているコケが選ばれます。水際でも、水面からはある程度の距離、数センチ〜数十センチ高い場所で、決して水面近くではありません。増水時、渇水時でも卵が水没または乾燥から守られる、そして孵化した幼虫が水中に落ちるように、水面に対して垂直に生えているコケに産卵します。コケの種類は、ハイゴケ、シノブゴケ、ノコギリゴケ、ナギゴケ、ツヤゴケなどです。こうしたコケ類は、朝霧の水分とそれに含まれる微量な養分、そして朝の日差しで光合成を行います。乾燥しても枯れることはありませんが、自ら水分を保つように密集して何層にもなって生えていたりします。また、コケでなくても、水際に生えている草の根元に産卵しているところを観察したことがあります。

ホタルの産卵場所図説

ホタルの産卵場所の写真
写真 産卵場所 A

ホタルの産卵場所の写真
写真 産卵場所 B

  産卵中の発光は、約1秒間隔です。この発光が信号になるのか、間もなくすると別のメスもやってきて、産卵を開始します。産卵場所までは明滅せずに弱くしかも非常に速いサイクルで光り続けています。(この明滅は、オスが交尾のためにメスに近づく時にも見られます。)
  産卵は夜11時頃から始まります。産卵するメスは、コケの上で少しずつゆっくりと移動しながら尾端を内側にまげてコケの間に入れます。そして尾端から出した産卵管を自在に動かしながらコケの間に卵を産み付けていきます。産卵は夜明けまで続けられますが、午前5時頃になるとその場を飛び立つメスが目立ち始めます。しかし、雨や曇りの薄暗い日には、午前8時をすぎてもまだ産卵しているメスもいます。ほとんどは正午には飛び立っていなくなりますが、中には1日そこでじっとしているものもいます。一匹のメスが生む卵の数は、500〜1000個くらいです。一匹ずつメスを隔離して産卵させ、孵化した幼虫を数えたところ平均800匹でしたので、おそらくこのくらいでしょう。この産卵数は、他の昆虫類にくらべても多い方であると言えます。一般的に、不安定、不確実な環境に棲む昆虫は、産卵能力が高いのが通例です。メスはこの数の卵を一夜にして産む訳ではありません。2〜3日かけて産卵します。前夜と同じ場所にくるメスもいれば、他の場所で産卵するメスもいます。
産卵行動に関して興味深い事柄があります。それは、西日本では、多数のメスが一カ所に集まって卵を産む「集団産卵」です。40〜50匹のメスがそっと光りながら集団で産卵するのです。産卵しながら発光し、この光めがけて多くのメスが集まってくるのです。この行動は、東京など東日本型のゲンジボタルには見られません。(単独産卵)しかし、そもそも発生するホタルの数が西日本の方が圧倒的に多く(数千、数万匹単位)、産卵する場所がある程度限定されているための現象と考えることもできますが、詳しいことは解っていません。
  実際に自然河川の場合、好適な産卵場所は決して多いとはいえません。例えば、護岸が整備されて川に張り出した樹木や岩のない生息地では、護岸の水面近くに生えているわずかなコケに産卵しています。もっとも変わった場所では、橋の裏のコケに産卵したという報告もあります。

ホタルの寿命

ホタルの食餌

  よく知っている童謡に、「ほ−、ほ−、ほたる来い。こっちの水はあまいぞ。こっちの水は苦いぞ。ほ−、ほ−、ほたる来い。」というのがあります。
ホタルは、甘い水が好きなのでしょうか。実験的に、成虫に砂糖水を飲ませると長く生きることはありますが、基本的に成虫はほとんど何も食べません。自然界でのホタルは、時草の葉にたまった夜露などを飲むだけです。幼虫時代に蓄えた養分だけで生きていますので寿命も短くなっています。

死んだホタルの写真 産卵後一生を終えたメス

ホタルの寿命

  生理的な寿命は、オスが13.9日、メスが15.5日という報告がありますが(勝野1968)
羽化したホタルを飼育しますと、オスが15日、メスが22日生きたことがあります。低温で飼育した場合は、1ヶ月以上生きた場合もあります。しかしながら、自然界においては、外敵も多く、特に飛び回ることの多いオスにおいては、3〜4日、メスでは5〜6日くらいであるという観察報告があります。(堀他1987)


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