ホタル百科事典/ホタルに関する質問
素朴な質問です。ほたるは、どうして光を放てるのでしょうか?体の中に電気など発光させる機能を持っているのでしょうか?オスがメスを誘うときに発光することはわかりましたが、ほたるの光るシステムがわからないんです。よろしくお願いします。昨日、生まれて初めてほたるを見ました。感動的で、ぜひ教えてください。
ホタルは、発光細胞内に存在する発光素ルシフェリン(Luciferin)、ホタルの場合は、ホタルルシフェリン(C11H117N2O3S2)と酵素ルシフェラーゼ(Luciferase)、ATP・アデノシン三リン酸(Adenosine
Triphosphata)やマグネシウムイオンが、気管から供給される酸素によって化学反応を起こし、光を発する仕組みになっていると言われています。ルシフェリンは、ルシフェラーゼ及びマグネシウムイオンを触媒として、ATP(アデノシン-三-リン酸)と反応し、ルシフェリン-AMP(アデノシン-一-リン酸)という物質に変化します。これにもう一度ルシフェラーゼが作用すると酸素と反応してペルオキシドアニオンを生成した後、AMPが除かれてルシフェリンのカルボキシル基がカルボニル基となり、ジオキセタン誘導体となります。ジオキセタン誘導体が二酸化炭素(CO2)を放出して、励起状態のオキシルシフェリンになります。このオキシルシフェリン中の酸素原子が励起状態なっているため、酸素原子中の1つの電子は非常に高いエネルギーを持っています。そのため、これが分解して基底状態になるときに光を放出することになります。
ホタルの発光器は、発光細胞、反射細胞、神経、気管から成り立っており(下図)、反応によって生じた光は、反射細胞によって透明な表皮を透り外部に放射されています。発光は、発光器内を巡る神経によって制御され、また、一酸化窒素(NO)が反応に必要な酸素の供給を制御していることが明らかになっています。
図1.ホタルの成虫の発光器断面図
図2.ホタル・ルシフェリンの発光反応
ホタルの発光は、量子収率の高い生化学的酸化反応の一種で、ほとんど熱を伴わない発光です。白熱電球を発光させる場合、エネルギーの9割が熱に変わり、蛍光灯では8割が失われています。しかしホタルでは、エネルギーの多くが光として使われています。反応を常温・常圧で極めて安定的に効率的に進める触媒の働きをする酵素ルシフェラーゼの働きでルシフェリンが酸化して大きなエネルギーを生じ、これが熱を伴わない光エネルギーとして外部に放出されていると言われています。また、この反応における生成物は、生きているホタルの発光器内ではリサイクルされており、反応が継続されています。
ホタルの発光効率は、「量子収率」(ルシフェリン1分子の反応から1光子が放出される確率として定義される)が、88%という他に例を見ないほど高い値であることで有名です。しかし、この88%という値は1959年に、いくつかの人為的な仮定に基づき、かつ当時の限られた測定技術を用いて評価された値そのままの引用で、また、これまで検証や追試がなされてこなかったという歴史的経緯があります。秋山英文(東京大物性研究所准教授)研究チームが、全発光量を測定できる装置を開発し、ホタルの中で最も明るい光を出す北米産ホタル(Photinus Pyralis)を調べた結果、北米産ホタルの生物発光の量子収率は41%で、これまで定説となっていた88%以上という特異的に高い量子収率とは大きく異なっていることを発見しました。ホタルの発光効率は、現在知られている生物の中で最も高いものですが、エネルギーを予想以上に浪費しており、光にならなかったエネルギーは熱に変化したと考えられます。
また、ホタルが出す光の成分を調べると、従来は赤色と緑色の間で発光量を変えると考えられていましたが、光の三原色の青色は出さずに、赤色の光量を変えないまま、緑色の光だけを増減させて色を変化させていることが判明しました。
これらの定量的な実験および解析は、ホタル発光の詳細な機構を解明・利用してゆくために最も基本的でかつ重要な知見であるうえに、他種のホタルやホタル以外の生物発光研究のモデルケースとしても非常に重要であると言えます。
ホタルの発光メカニズムの研究では、Tarbiat Modares大学Branchini博士が詳しい論文を発表しています。北アメリカのホタルの発光メカニズム研究
参考文献:
後藤俊夫/生物発光 1975
羽根田弥太/発光昆虫−螢− 1980
羽根田弥太/発光生物 1985
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