ホタル百科事典/ホタルの種類と形態1-1.

東京にそだつホタル

ホタルの種類と分類

日本国内におけるホタルの種類と分類

 ホタルと聞いてまず思い浮かべるのは、美しい光を放つゲンジボタルとヘイケボタルの2種類でしょう。しかし、日本をはじめ、世界には多くのホタルがおり、世界のホタルの種類はおよそ2,700種類、そのうち日本のホタルの種類(オオメボタル科を含む)は52種5亜種です。国内のホタルの種類については、当初、Kiesenwetter、Motschulsky、Gorham、などが記載し、村松松年氏、岡田要氏らによってまとめられました。その後、中根氏、佐藤氏らが琉球列島から多くの新種を記載しました。保育社の「原色日本昆虫図鑑」(1985)にはホタル科34種類、九州大学・日本野生生物研究センター編の「日本産昆虫総目録」(1989)では42種類がリストアップされています。ホタルの分類においては、分類学上の取り扱いが、研究者によって異なることから、亜種であったり独立種にされたりと、同一種として統合されたり、また、その後日本から確認できなくなったり、図鑑によって種名と和名が異なっている場合もあり、種類数はかなり変動しているのが実状です。
 従来の分類学は、幼虫形態を始め、成虫形態、交尾器の構造に基づいて構築されてきましたが、今後は、DNAと形態を含めての解析や配偶行動・発光行動など個体レベルでの生態的特徴や遺伝的背景をも包括しながら見直す必要性もありますので、種類数や分類は、今後改変されていくかも知れません。

 下表は、川島、鈴木、佐藤氏らが日本ホタル類の原記載論文と、出来る限りの模式標本を再度調査し、分類学上の問題点を解決するために編纂し発表した論文からの日本産ホタルの種類と分類リストを記載したものです。
 日本のホタル類のなかで、最初に記載命名された種類は Luciola japonica  (和名/キイロボタル)ですが、このリストでは、邦産種から削除されました。根拠は、ウプサラ大学所蔵のタイプ標本の全形背面とラベルのカラー写真を入手して検討した結果、Luciola japonica は Luciola chinensis   (Linnaeus, 1767) と同種であろうということ、また日本国内には実際には生息しいないことから整理されたためです。またこれまでは、ヒメボタル、ツシマヒメボタルは、Hotaria属に分類されていましたが、このリストでは、Luciola属に改変されました。それから、中根氏が亜種と記載(1987)した青森県十和田町で採集された無紋型のゲンジボタル(ゲンジボタル十和田亜種 Luciola cruciata towadensis Nakane, 1987)は、斑紋パターンの変異個体と考えられるために削除されました。 また、2021年6月に日本昆虫分類学会誌「Japanese Journal of Systematic Entomology」に日本産の新種のホタル「ヤクオオオバボタル」が記載されました。
 更に、これまでゲンジボタルの学名は Luciola cruciata Motschulsky, 1854 でしたが Nipponoluciola cruciata (Motschulsky, 1854) に変更となりました (Ballantyneら, 2022年12月30日)。ヘイケボタルの学名は,Luciola lateralis Motschulsky, 1860からAquatica lateralis (Motschulsky, 1860) に、すでに変更されていますので(Fuら, 2010年)、ゲンジボタルとヘイケボタルは、それぞれ Nipponoluciola属とAquatica属に属する別属別種として扱われることになります。
(参照文献)https://europeanjournaloftaxonomy.eu/index.php/ejt/article/view/2023/8325
 日本産ホタル52種類のほとんどが陸生ホタルで、一生を通じて陸地で生活します。幼虫が水中で過ごすホタルは、ゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタル の3種類のみで、半水生はスジグロボタルの1種です。
 また、ホタル科の幼虫はすべて発光しますが、成虫になるとほとんど発光しないものも多くいます。

日本産ホタルリスト

Family Lampyridae Rafinesque, 1815(ホタル科)

I. Subfamily Psilocladinae /クシヒゲボタル亜科
Genus Cyphonocerus Kiesenwetter, 1879(クシヒゲボタル属)
II. Subfamily Ototretinae /ミナミボタル亜科
Genus Drilaster Kiesenwetter, 1879(ミナミボタル属)
Genus Stenocladius Fairmaire, 1878 (ヒゲボタル属)
III. Subfamily Luciolinae /ホタル亜科
Genus Nipponoluciola Ballantyne, 2022 (Nipponoluciola属)
Genus Aquatica Fu, Ballantyne & Lambkin, 2010 (Aquatica属)
Genus Luciola Laporte, 1833 (ホタル属)
Genus Curtos Motschulsky, 1845(スジボタル属)
IV. Subfamily Lampyrinae /マドボタル亜科
Genus Pyrocoelia Gorham, 1880(マドボタル属)
Genus Pyropyga(ノハラボタル属)
Genus Lucidina Gorham, 1883(オバボタル属)
Genus Pristolycus Gorham, 1883 (スジグロボタル属)

Family Rhagophthalmidae (オオメボタル科)

Genus Rhagophthalmus Motschulsky, 1853 (オオメボタル属)

引用文献

  1. Itsuro KAWASHIMA, Hirobumi SUZUKI and Masataka SAT (2003)
    A check-list of Japanese fireflies (Coleoptera, Lampyridae and Rhagophthalmidae). Japanese Journal of Systematic Entomology, Vol. 9: 241-261.
  2. Itsuro KAWASHIMA, Fumiyasu SATOU and Masataka SAT (2005)
    The Lampyrid genus Drilaster (Coleoptera, Lampyridae, Ototretinae) of the Ryukyu archipelago, Southwest Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, Vol. 11: 225-262.

関連ホームページ:日本ホタルの会日本産ホタル科の全図鑑

 日本には、ホタル科とは別にベニボタル科という種類もいますが、ホタル科と近縁ではあっても、発光は、一生を通じて全くしません。形態はホタル科に似ていますが、成虫の体は柔らかく細長くて腹背に平たく、前翅が赤い種類が多く見られます。また、触角が大きく発達しており、種類やオスメスによって櫛状や鋸状になっています。おもに林の中にすみ、昼行性です。幼虫の形態もホタル科の幼虫に似ています。大抵は朽ち木等で見つかりますが、脆弱な口器、2本の特殊な大顎など、特異な形態を持つものの食性はよく分かっていません。粘菌の変形体を食べるらしいとの観察例がいくつか報告されていますが、定かではありません。

Family Lycidae(ベニボタル科)
1.Benibotarus nigripennis(クロミスジヒシベニボタル)
2.Benibotarus sanguinipennis(アカミスジヒシベニボタル)
3.Benibotarus spinicoxis(ミスジヒシベニボタル)
4.Calochromus nagaii(オオツヤバネベニボタル)
5.Calochromus rubrovestitus(ツヤバネベニボタル)
6.Cautires amamiensis(アマミアカハネクロベニボタル)
7.Cautires bannanus(バンナクロベニボタル)
8.Cautires bourgeoisi(ネアカクロベニボタル)
9.Cautires geometricus(ミダレクロベニボタル)
10.Cautires hyonosen(ニセクロベニボタル)
11.Cautires kazuoi(ヤエヤマアカバネクロベニボタル)
12.Cautires kurilensis(エゾクロベニボタル)
13.Cautires nakanei nakanei(カクムネクロベニボタル)
14.Cautires nakanei yakushimanus(ヤクカクムネクロベニボタル)
15.Cautires takakurai(キュウシュウクロベニボタル)
16.Cautires yuasai(ユアサクロベニボタル)
17.Cautires zahradniki ohdaisanus(キイマエアカクロベニボタル)
18.Cautires zahradniki zahradniki(マエアカクロベニボタル)
19.Conderis chuioi(スソアカベニボタル)
20.Conderis orientis(スジアカベニボタル)
21.Conderis pictus(スミアカベニボタル)
22.Conderis rufohumeralis(カタアカベニボタル)
23.Dictyoptera aurora(ミヤマヒシベニボタル)
24.Dictyoptera elegans(クロバヒシベニボタル)
25.Dictyoptera gorhami(ヒシベニボタル)
26.Dictyoptera oculata(メダカヒシベニボタル)
27.Dictyoptera ohbayashii(ミヤビヒシベニボタル)
28.Dictyoptera speciosa(ネアカヒシベニボタル)
29.Dictyoptera velata(アカスジヒシベニボタル)
30.Eropterus aritai(ミナミベニボタル)
31.Eropterus nothus(カタアカハナボタル)
32.Eropterus yakushimaensis(ヤクシマハナボタル)
33.Konoplatycis otome(ムネアカテングベニボタル)
34.Libnetis granicollis(コクロハナボタル)
35.Libnetis kazuoi(カズオコクロハナボタル)
36.Lopheros crassipalpis(ヒゲブトジュウジベニボタル)
37.Lopheros harmandi harmandi(ニセジュウジベニボタル)
38.Lopheros harmandi hiroshimensis(ヒロシマニセジュウジベニボタル)
39.Lopheros harmandi shikokuanus(シコクニセジュウジベニボタル)
40.Lopheros konoi(コウノジュウジベニボタル)
41.Lopheros lineatus(ジュウジベニボタル)
42.Lopheros minimus(チビジュウジベニボタル)
43.Lopheros septentrionalis(キタベニボタル)
44.Lycostomus bourgeoisi(ブジョオフトベニボタル)
45.Lycostomus formosanus(タイワンベニボタル)
46.Lycostomus modestus(ベニボタル)
47.Lycostomus semiellipticus kumamotoniss(クマモトフトベニボタル)
48.Lycostomus semiellipticus(フトベニボタル)
49.Lyponia delicatula(ヒメベニボタル)
50.Lyponia ishigakiana(イシガキカクムネベニボタル)
51.Lyponia nigroscutellaris nigroscutellaris(コガタカクムネベニボタル)
52.Lyponia nigroscutellaris subpectinata(ニシコガタカクムネベニボタル)
53.Lyponia osawai(ヒメカクムネベニボタル)
54.Lyponia oahimana(オオシマカクムネベニボタル)
55.Lyponia quadricollis(カクムネベニボタル)
56.Macrolycus aemulus(コクシヒゲベニボタル)
57.Macrolycus dominator ishigakianus(ヤエヤマクシヒゲベニボタル)
58.Macrolycus excellens(オオクシヒゲベニボタル)
59.Macrolycus flabellatus(クシヒゲベニボタル)
60.Macrolycus montanus(ミヤマクシヒゲベニボタル)
61.Macrolycus okinawanus(オキナワクシヒゲベニボタル)
62.Macrolycus shirakii(アマミクシヒゲベニボタル)
63.Macrolycus similaris(ヒメクシヒゲベニボタル)
64.Mesolycus atrorufus(ホソベニボタル)
65.Plateros coracinus(クロハナボタル)
66.Plateros gomadanus(ムナキクロハナボタル)
67.Plateros hasegawai(ニセクロハナボタル)
68.Plateros ignius(ヤエヤマハナボタル)
69.Plateros ikarianus(イカリハナボタル)
70.Plateros imasakai(イマサカクロハナボタル)
71.Plateros japonicus(ヒメクロハナボタル)
72.Plateros kirishima(キリシマハナボタル)
73.Plateros koreanus(チョウセンハナボタル)
74.Plateros kosakai(ヒバクロハナボタル)
75.Plateros mariginicollis(キベリハナボタル)
76.Plateros mieai(ミワハナボタル)
77.Plateros nakachii(オキナワハナボタル)
78.Plateros nozirianus(ウスグロハナボタル)
79.Plateros purpurivestis(アカゲハナボタル)
80.Plateros rufomarginatus(ヤエヤマキベリクロハナボタル)
81.Plateros sakishimana(サキシマハナボタル)
82.Plateros shibatai(シバタハナボタル)
83.Plateros shirakii(アマミハナボタル)
84.Plateros udoensis(ウドハナボタル)
85.Plateros yaku(ヤククロハナボタル)
86.Plateros yayeyamanus(ヤエヤマベニハナボタル)

東京都内に生息するホタルの種類と分類

東京都内でこれまでに発見されているホタルは、以下の9種類です。
赤い字のホタルは、別途写真を見ることができます。

Family Lampyridae(ホタル科)

I. Subfamily Psilocladinae(クシヒゲボタル亜科)
Genus Cyphonocerus Kiesenwetter, 1879(クシヒゲボタル属)
II. Subfamily Ototretinae(ミナミボタル亜科)
Genus Drilaster Kiesenwetter, 1879(ミナミボタル属)
III. Subfamily Luciolinae(ホタル亜科)
Genus Luciola Laporte, 1833 (ホタル属)
IV. Subfamily Lampyrinae (マドボタル亜科)
Genus Pyrocoelia Gorham, 1880(マドボタル属)
Genus Lucidina Gorham, 1883(オバボタル属)
Genus Pristolycus Gorham, 1883 (スジグロボタル属)
帰化ホタル(ノハラボタル)
1996年に大田区の六郷橋から大師橋にかけての多摩川河川敷で帰化種と思われるホタル(仮称:ノハラボタル)が採集されています。このホタルは、南北アメリカに分布するPyropyga属と思われ、体長5mmほどでオバボタルに似ています。ノハラボタルは、1983年に初めて採集されており、完全に定着し、繁殖しているものと思われます。また、荒川や中川の河川敷からも採集されています。
(金子義紀 1997、大田区のコウチュウ目.大田区自然環境保全調査報告書−大田区の昆虫−:130-154.)

(English:About a Japanese fireflies


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