ホタル撮影の方法/私の撮影機材

東京にそだつホタル


ホタル撮影とフィルムの相反則不軌

ホタル撮影と相反則不軌

特性曲線

フィルムの性質を知る上で重要なもののひとつに、特性曲線があります。下図に示したのがその典型的な形状を模式的に表したものです。縦軸は現像後のネガの濃度(D)を表し、横軸は撮影時の露光量Eの対数(logE)を表しています。現在売られているほとんどのフィルムのデータシートにはこの特性曲線が載っています。この曲線を4つの領域に分けて説明します。

フィルムの特性曲線

(a)カブリ領域
この部分は、フィルムに全く光を当てずに現像したときのフィルムの濃度を表します。カブリは一般に高感度のフィルムほど大きくなります。カブリが多いと、微光なホタルの発光はバックに埋もれてしまうので、撮影地の光害の量に応じて露出時間を加減する必要があります。

(b)足もと部
この領域は、露光量の増加に伴い徐々に濃度が増加し始めます。ここはフィルムの感度と関係があり、高感度なフィルムほど少ない露光量で濃度が増加し始めるので、この領域はグラフの左側に来ることになります。

(c)直線部
ここがいわゆる適正露光領域で、写真の仕上がりが最も良い部分です。直線の傾き(tanθ)をガンマといい、傾きが大きいほどコントラストが強く、メリハリのある写真になります。直線部の範囲をラチチュード(Latitude)といい、露光量の許容範囲を表します。ラチチュードが広いほど露出の失敗が少なく、初心者にも扱いやすいと言えます。

(d)肩部
露光量が多すぎ、露出オーバーとなる領域で、色の再現性が非常に悪くなります。

相反特性と相反則不軌

上図の特性曲線の露光量Eは、フィルムに当たる光の強さIと露出時間tの積になります。つまり,I×t=Eとなるわけで、 Eを一定にするには、光の強さを変える方法(絞り)と、露出時間(シャッター速度)を変える方法の2つがあります。これをI×t=Eの式で考えてみると、たとえば絞りF2.0,シャッター速度1/60秒で適正露出だったとき、絞りをF4.0に絞ったとすると、シャッター速度を遅くして1/30秒にすればEは変わらず、フィルムの濃度も変わりません。この関係を乳剤の「相反則(そうはんそく)」(ブンゼン・ロスコーの法則)といいます。
しかし、相反則が成立するのはシャッター速度でせいぜい1/250〜1秒程度で、暗い対象に数十分もの露出をかけるホタル写真の場合、フィルムの実効的な感度が低下してしまうという困った性質があります。これを「低照度相反則不軌(ていしょうどそうはんそくふき)」といいます。この相反則不軌は、露出時間が長いほど、そして対象が暗いほど顕著になります。さらに困ったことに、カラーフィルムの場合は3つの乳剤により感度が低下する割合が異なるため、色も正しく写らないことになります。
相反則不軌が起こる理由について簡単に説明します。上述した写真感光の基本となる反応式において、銀の潜像核というのは、実は4個程度以上の銀の原子が集まらないと、現像しても黒いネガ像を形成できません。このためには反応がある程度連続して起きる必要があります。1つの光子が当たってから次の光子が来るまでの時間が長いと(つまり対象が暗い)、熱によってせっかくできた銀の粒子が分解してしまいます。

相反則不軌特性による色バランスのくずれ

下図はデイライトタイプのカラーフィルムの相反則不軌特性を模擬的に表したものです。これによるとシャッタスピード10-3sec〜1secの間では各層の感度の低下も無くカラーバランスも保たれていますが1secより長くなると各層は感度の低下を生じそれも低下率が各層それぞれ異なる為、カラーバランスもくずれてきます。例えばシャッタスピード10secのところでは緑感層の感度がほとんど落ちていないのに対し赤感層感度は大きく落ち込んで来る為、ホタルの風景写真は緑青(青緑)っぽいものとなってしまいます。この緑青を消すには緑の補色であるマゼンタと青の補色である黄色のフィルタを使います。この相反則不軌特性は各フィルムによってそれぞれ異なっており、これはフィルムに附属の説明書や各メーカーから出されているテクニカルシートから読み取る事が出来ます。

相反則不軌特性による色バランス

長時間露光のための補正

撮影の適正露出量は、シャッター速度と光の明るさ(絞り)の積が一定である限り、様々な設定値が選べます。例えば、絞り値f4で1/125秒はf16で1/8秒と同じ露出量になります。しかし露出量が同じであってもシャッター速度が極端に遅かったり速かったりすると、フィルムの基本的な感度やカラーバランスが変化して、期待通りの仕上がりになりません。この現象を相反則不軌といいますが、これらを解消するためには、CCフィルターによる色補正と露出の調節を行う必要があります。

以下にホタル撮影に適したフジクロ−ムPROVIA 400Xプロフェッショナル(RXP)の補正データを掲載します。

フジクロ−ム/プロビア400Xフジクロ−ム/プロビア400X

露光時間1/4000〜1分の範囲では補正の必要はありませんが、2分以上の長時間露光では相反則不軌の影響が現れてきます。その場合、下表のように色補正フィルターによるカラーバランス補正と絞りによる露光量補正が必要です。

プロビア400X補正データ

露光時間(秒)

1/4000(秒)〜1分

2分

4分〜8分

色補正フィルター

不要

2.5R

5R

露光量補正(絞り) *

+1/2

+1

*露光量の補正には色補正フィルターの露光倍数が含まれています。フィルターなしの状態での露出計指示値に対して、この表の補正をしてください。+は「絞りを開ける」

参考:Stellar Scenes http://www.ne.jp/asahi/stellar/scenes/tutorial/tutral1.html

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