ホタル百科事典/ホタルに関する調査研究レポート

東京にそだつホタル

ホタル幼虫の上陸と気象について

  ホタル(ゲンジボタル)の幼虫の上陸は、東京地方では4月中下旬から5月上旬頃に行われ、気象条件と密接な関係があると言われています。自然環境に近づけた飼育水槽において、幼虫が「いつ」「どうのような条件」で上陸するのか考察します。

*下のグラフは、Javaアプレットで作成しております。正しく表示されない場合は、http://www.java.com/ja/download/ より、お使いのオペレーティングシステムに推奨されたバージョンの Java をインストールしてください。

1月

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*1月26日にホタルの幼虫を室内飼育から屋外飼育に切り替えたために、水温が低下。ホタルの幼虫は低温下でもカワニナを捕食。上陸はなし。気温は変動しているが、徐々に上昇傾向にある。

2月

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*気候の特徴としては、最高気温は変動してはいるもののそれぼど上昇傾向はない。しかし、最低気温は徐々に上昇傾向がみられる。水温については、気温の変化に左右されている。計測時点が上陸する時刻(21時)であるために最高気温の変動に近いが、1日の変動をみれば最低気温同様に、徐々に上昇している。ホタルの幼虫の行動においては、数匹は水温変動に関係なくカワニナを摂取しているが、大部分は1日のほとんどを石等の下で隠れてすごしている。

3月

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*気候の特徴としては、かなり寒暖の差が激しく、下旬になりようやく最高気温が20℃に届くようになった。しかし、最低気温は下旬でも10℃を依然として下回っている。ホタルの幼虫は、中旬まではカワニナ摂取量が多かったものの、下旬になると(最高気温の上昇時期と重なる)カワニナ摂取量が極端に減少した。ホタルの幼虫は石の下等に隠れ、その姿をほとんど見せることはない。

4月

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*4月 1日 終齢幼虫が発光するようになる。
4月12日 カワニナを捕食しなくなる。
4月15日 水際で待機する行動を見せ始める。
4月25日 初上陸
4月28日 この日の上陸は、霧吹きで人工的に降雨状態にしたために行われた。

  ゲンジボタルの幼虫は、冬期でも冬眠および休眠はしない。これは、飼育においても自然発生地の渓流等においても、冬期に活発にカワニナの摂食行動が観察されることから、そう考えられる。通常、冬眠・休眠する昆虫は、低温の経験、日長時間がその休眠解除のためのホルモンに作用するが、冬眠・休眠しないホタルの幼虫にとっては、特に冬期における低温の経験はほとんど意味を持たないと言える。人工飼育において、冬期間に水温10℃以上の場合とそれ以下の場合とで、後の行動に差が見られないことからも、そう考えられる。ホタル幼虫の上陸時期の判定においては、水温の変動よりも日長時間と気温の寒暖差が重要であると考えられる。日長時間においては、1日中暗くした装置ではいつまでも上陸を開始しないことから、関係があると思われ、気温については特に最低気温が10℃を下回らなくなることが重要と思われる。これは、蛹化の発育零点が8.02℃であることから、それを上回る気温(地温)が条件として重要であると考えられる。実際に生息地数カ所において、ホタル幼虫の上陸後の気温・地温を計測してみると、8℃を下回る日は、全くないか、あっても1日か2日である。これは、日長時間から季節の進み具合を察知する意外に、方法はないと思われる。ホタル幼虫の上陸そのものについては、最初の上陸は、条件が厳しく絞り込まれる。1日の寒暖差がほとんどなく、水温と気温がほぼ同じでしかも10℃以上で無風の降雨時の20時以降である。その後の上陸に関しては、気温が高く無風であれば、降雨時でなくても、降雨後や湿度の高い夜であれば、数は少ないが上陸する。(人工的に霧吹き等において降雨状態にすれば、かなりの数が上陸する。)


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