ホタル百科事典/ホタルの保護5-4.

東京にそだつホタル

ホタル保護と再生の今日的問題

ホタルがいっぱい!でも自然が戻ったの?

  現在、全国でホタルに関わる運動が盛んであり、様々な活動がされていることはご承知の通りです。各地でホタルが沢山飛んでいるということは素晴らしいことですし、喜ばしいことではありますが、その方法に関しては問題がないわけではありません。
 ホタルを見に出かけて行き、ホタルを見た時に「ホタルが、いた!」といいます。しかし、そのホタルはその場所で生活(生息)しているのではなく、存在しているだけなのかも知れません。人々がホタルを見て楽しむために、人々にホタルを見せるために、ホタルの生態や生息環境を無視して、養殖・放流されているのです。このままでは、ホタルは里山という豊かな自然環境、生態系の結晶でも自然環境のバロメーターでもなくなってしまうかも知れません。
 ホタルを守るとはどういうことなのか・・・。私たちは何をしなければならないのか・・・。様々な視点から、ホタル保護と再生の今日的問題を検証します。

ホタル保護活動及び方法における諸問題

ホタルの幼虫放流に関する問題

養殖したホタル幼虫を放流するだけでは、ホタルが定着し自然発生する環境は取り戻せません

  よく目にする新聞等の記事に次のようなものがあります。「○○小学校の生徒がホタル保護のために幼虫を飼育。大きく育った幼虫をこの3月に河川に放流。今年もホタル乱舞が期待できそう・・・。」これは、ホタル乱舞のために関わった人々の努力と功績を称えているわけですが、安易に「すばらしい!」と評価してよいのでしょうか?
 記事の内容のように、「幼虫を飼育して放流」するということが、各地で盛んに行われています。ホタルの里親制度として、種ボタルを採集し、沢山産卵させて、孵化した幼虫を地域の方々が自宅で養殖し、3月頃に大きくなった幼虫を川へ放流するということも、当たり前のように行われています。これらは、「ホタルを守る」「ホタルを殖やす」ことを目的に行われていますが、この行為だけを繰り返すだけならば、「ホタルを守る」「ホタルを殖やす」ことにはつながりません。なぜなら、3月に放流する時に、それまでの飼育水槽の水質と河川の水質があまりにも違う場合、その急激な変化によって幼虫が死んでしまう可能性があります。そして何より、水質が同じ場合は、ほとんどカワニナを食べることなく、多くの幼虫が1〜2ヶ月後には、蛹になるために上陸します。陸地の条件がよければ、放流数に匹敵する多数のホタルが飛ぶかも知れません。ホタルが飛べば良いのでしょうか。それでは、その川で一生を過ごしたホタルは、一体何匹舞うのでしょうか?

  昨今の大型台風や集中豪雨による大増水から、ホタルの幼虫が流されることを防ぐために幼虫を一時的に避難させる意味で、10月頃まで飼育して放流することは必要な場合もあります。また、絶滅しかけた地域固有種を保存する意味では、幼虫を飼育して3月に放流することは、定着の初期段階としてたいへん有効な手段です。

  しかし、ホタルの生態系を重視して、自然環境(ホタルの生息環境)の改善をすることなく、毎年放流だけを繰り返しているだけの場合も少なくありません。結局、学校のビオトープも役所の管理するホタルの小川も、担当者が変わればホタルが飛ばなくなるのです。なぜ、飼育養殖して放流しなければならないのでしょうか?いつ、誰が、始めたことなのでしょうか?ホタルはサケとは違います。

  ホタルが自然発生する良好な環境では、1匹のメスが産んだ卵から翌年成虫になるのはたった数匹でしかありません。一見少ないように見えますが、実際はこれに、2年・3年越しで羽化した成虫が数匹加わり、これで、その場所のホタルの集団は遺伝的形質も単純ではなく、また数も極端に減少することなく存続しているのです。そこには豊かな生態系が存在し、そのバランスの中でホタルは生息しています。
 ホタルの生息できる環境を整えれば、放流を繰り返さなくてもホタルは定着するでしょう。”なるべく多くのホタルに舞ってほしい。”誰もが願うことです。しかし、人々はホタルの飛ぶ数だけにこだわり、ホタルの生態までも無視して、人々の手で幼虫を大きくなるまで育てています。ホタルの成育を人間がコントロールしてしまっているのです。
  ホタルのオスとメスを捕獲して採卵し、水槽では、充分な数のカワニナを”餌”として与えて養育します。こうして育てた場合は、孵化数の20%の幼虫が、たった5ヶ月で終齢幼虫に成長するのです。自然界では絶対にあり得ないほどの数の幼虫が、しかも場合によっては、同じ親をもつ幼虫たちが放流されるのです。

ホタルの自然界における生活サイクル
図1.ホタルの自然界における生活サイクル

ホタルの飼育放流サイクル
図2.ホタルの飼育放流サイクル

ホタル幼虫の河川への放流
図3.ホタル幼虫の河川への放流月と羽化数

  人工養殖によって生存率を高めた沢山の幼虫の放流は、同じような遺伝子を持つ個体の増加につながり、それを何世代も繰り返せば地域集団の遺伝的多様性を失います。その結果、環境への適応性や病気(細菌)等への抵抗力がなくなり、極端なことを言えば、絶滅する危険性もあるのです。
  しかし、こうした行為は年々増加傾向にあり、学校などでは環境教育と位置づけて行っています。「飼育することによってホタルのことがわかり、自然環境に興味を持つ・・・」皆、そうおっしゃいます。本当にそうでしょうか。実際は、いかに簡単な方法で、しかも大量に養育するのかに終始していないでしょうか。水槽での観察結果だけをホタルの生態と思い込んでいないでしょうか。観察といいながら、水底にはなにも敷かず、植木鉢の欠片を1つ2つ入れるだけ、カワニナは週に2〜3匹砕いて与える。これで、ホタルの生態が観察できるのでしょうか?人が見て楽しむために、生態系を無視して人の手によって養殖することは、環境教育ではありません。こうしたことを学んだ子供達が大人になったら、一体どうなるのでしょうか?

  河川整備に関しても、ホタル護岸さえすれば、良好な水辺環境が再現されるはずであるとか、ビオト−プを造ることが自然との共生であるという発想、これは、我々人間だけを尺度にした間違った考え方です。見た目だけの快い環境では生物は生きていけないということに気づかなければなりません。ホタルを取り巻く生態系は、単純ではないのです。
都市に造った親水公園やホタルの小川などで、ホタルが飛べば「自然」であると思うのも錯覚です。本来の生態系から切り離されたホタルは、人間のペットに過ぎません。

  ホタルを飼育・放流すればある程度ホタルが飛んでくれるという結果から「ホタルに関わった」という実感を得て、それを保護と勘違いしているのです。飼育して3月に放流すれば、ホタルは増やせる、絶滅をさけられる、保護をしている・・・と思うのは、大きな勘違いなのです。放流するならば、観察用の少数の幼虫を残して、それ以外は10月の台風後にするべきです。
  私たちは、まず、「ホタルは自然環境の結晶」という認識を持ち、ホタルが一生通じて暮らせるようなホタルの生態系を保全或いは復元することに全力を注ぐべきなのです。ホタルの生きる環境が整えば、生態系のバランスの中でホタルは徐々に増えていくのです。そうしなければ、本来のホタルの舞う自然は戻っては来ないのです。
 例え僅かなホタルしか飛ばなくても、豊かな生態系を継続維持、或いは取り戻すことに努力した結果であるならば、ホタルは定着し大きな価値と意味があるのです。それがホタル保護なのです。

  と言っても、これまで多くの方々が先に挙げた方法を行っており、この考えはなかなか浸透しておりません。場合によっては、逆にお叱りをうけたり、頭が固いと言われることもあります。宗教じみているとか、営業妨害と言われることもあります。しかし、「ホタルを守りたい」「ホタルを増やしたい」と思う方々は、「ホタル保護」についてぜひ再考していただきたいと思います。

ホタルの他地域への移動に関する問題

ホタルの遺伝子型グループについて

  上記の活動の中では、他の地域からホタルを持ってきて放流するということも多く行われていますが、西日本と東日本のゲンジボタルでは、発光間隔が異なっており、特にメスを探している時のオスの発光パターンは明瞭で、明滅の間隔は西日本は2秒、東日本では4秒と異なっています。また、西日本のゲンジボタルは、集団産卵などの生態的特徴を示していますが、この性質は東日本に移植しても変わることはありません。そして最新の研究では、これらのホタルは遺伝子も異なっていることが解っています。
 鈴木浩文氏(オリンパス光学研究所)の「ミトコンドリアDNAからみたゲンジボタル集団の遺伝的な変異と分化」の研究によれば、まずゲンジボタルは、中部山岳地帯(フォッサマグナ)を境に生態的な二型の存在、すでにご承知の西日本型と東日本型に分けることができます。西日本型のホタルを東日本型に移植しても本来の習性を維持していることから、この二型は遺伝的な分化が生じていると考えられます。これは、アイソザイム(酵素)分析によって確かめられていますが、さらにミトコンドリアDNAのチトクロ−ムオキシタ−ゼ遺伝子を用いて、より詳細に分析しています。方法としては、個々のゲンジボタルから全DNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのチトクロ−ムオキシタ−ゼ遺伝子U(COU)領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)によって増幅し、増副産物をそれぞれ6種類の制限酵素で消化した後、4%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって切断パターンを比較してハプロタイプ(遺伝子型)を決定するというものです。その結果、ミトコンドリアCOU遺伝子の変異解析から19種類のハプロタイプが検出されています。(下図)これらは、日本列島に一様に分布しているのではなく、各地域に固有のハプロタイプとしてみられ、地域集団間の遺伝的分化が進んでいることを示しています。

COU遺伝子からみたゲンジボタルのハプロタイプグループ図

  また、ハプロタイプ間の類縁関係を知るために塩基配列を比較すると、ゲンジボタルは、東日本、西日本、九州という大きな3つの系統と6つのハプロタイプグループに分けることができます。(鈴木浩文、2000.)(下図) これらのグループの境界は明瞭で、柏崎−千葉構造線、糸魚川−静岡構造線、フォッサマグナ地溝帯等を堺にして分布しています。また、グループ間の類縁関係については、6つのハプロタイプグループ内の塩基の異なっている割合は1%程度で、西日本と東日本の系統間では約3%、九州と本州の系統間では約4.5%の違いがあります。

COU遺伝子からみたゲンジボタルのハプロタイプグループ図
COU遺伝子からみたゲンジボタルのハプロタイプグループ図
図4.COU遺伝子からみたゲンジボタルのハプロタイプグループ

ヘイケボタルの遺伝子タイプ
図5.COU遺伝子からみたヘイケボタルのハプロタイプグループ

  上図は、ヘイケボタルのCOU遺伝子からみたハプロタイプグループ図ですが、ヘイケボタルでは、9種類のハプロタイプグループが検出されています。(鈴木浩文、2004.)ハプロタイプ間の塩基差異はほぼ1%で、ゲンジボタルのようなグループは特定できません。また、地域集団間の分化もそれほどは進んではいません。

  また鈴木氏の研究では、他の昆虫で得られた分子の変異速度を当てはめると、ゲンジボタルは1,500万年〜500万年前の間に古代日本列島に既に分布しており、その後の日本列島の形成と共に地域分化を遂げ、500万年前に西日本型と東日本型など、現在みられる地質構造に対応した6つのグループができたことが分かっています。(図5)2.5〜4秒の不規則な発光間隔のクメジマボタルはゲンジボタルと祖先が同じだと考えられており、その分岐は1,600万年前。これに対してゲンジボタルと同じような生態・生活史をもつヘイケボタルは、遺伝的な地域分化がほとんどみられないことから、約100万年前の大氷河期の終わり頃から、除々に列島全体に分布を拡げていったものと思われます。

COU遺伝子からみたゲンジボタルの系統関係
図6.COU遺伝子からみたゲンジボタルの系統関係

  鈴木氏は、同様にミトコンドリアのCOU遺伝子を用いて、東京都において他地域から持ち込まれたゲンジボタルがどの程度定着しているのかの調査も行っています。(鈴木浩文、2001.)調査は、自生地、自生地に放流したもの、自生していない地区に放流したもの、人工水路のもの数個体から行われています。

東京都におけるゲンジボタルのハプロタイプ分布図
図7.東京都におけるゲンジボタルのハプロタイプ分布(鈴木浩文 2001.)

  結果は、上図に示す通りです。全部で3種類のハプロタイプ(遺伝子型)が確認されました。関東型のハプロタイプだけを持つ地域は6カ所のみで、その他の地域では、西日本型や中部型が混在しています。これら混在はすべて人為的な移動による定着と考えられます。

ホタルの人為的移動は何故いけないのか。

  上述のようにミトコンドリアDNAによって、地域ごとに遺伝子の異なるグループ、つまりホタルの系統と分布が明らかになってきました。どんな生物でも、地球上のどこかに「分布域」というのを持っており、これは自然の摂理によって定められています。そして、生物の分布に大きな関わりを持ってくるのが土地の歴史である「地史」であり、地史における地形の変化が生物の分布に影響を与え、その結果、現在の分布域が成立したと考えられています。(生物と地理との関係を調べる学問分野を生物地理学 biogeography と呼んでいます。)
  ホタルについても同様です。つまり安易なホタルの移動と放流は、生物地理学上の系統や分布を攪乱することになるのです。

  また、生態の項で述べましたように、ホタルには発光間隔をはじめとして、各行動にかなりの地域特性があります。また、それぞれの生息環境に適応した生態的特徴もありますし形態的相違も見られます。それぞれの分布域には、生物地理学上生じた「地域固有性」があるのです。もし、もともとホタルが生息している場所に遺伝子の違う他地域のメスを種ボタルとして持ってきた場合、DNAは母性遺伝するために、他地域の遺伝子が急速に広がる可能性が極めて高いと言われています。つまり、その地域に固有の遺伝学的特徴が失われたりする、「遺伝学的汚染・遺伝子攪乱」が生じ、その地域固有の生態的・形態的な特性も失われてしまいます。

  ホタルの遺伝学的汚染や遺伝子攪乱は、東京都内だけでなく既に全国的に広がっています。また、元来、ゲンジボタルの生息北限は青森県なのですが、現在ではブラキストン線(本州と北海道の間に引かれた生物分布境界線)を越えて北海道にも人為的に持ち込まれています。他地域のホタルを移動し定着させても、生態系にはほとんど影響ありませんし、見た目には何も変わることのないホタルです。繁殖して増えれば嬉しいものです。しかしながら、それぞれ特徴を持った地域固有種は守らなければなりません。守るためには、人為的移動は避けなければなりません。安易な移動と放流は、ホタル保護でも自然保護でもないということを知らなければなりません。

カワニナの移入と外来種問題

  他地域からの移動による遺伝子攪乱は、カワニナについても言えます。カワニナは河川ごと、場合によっては同じ河川でもその生息場所ごとに生態特性が異なっています。カワニナの遺伝子研究はほとんどされていませんが、ホタルよりも地域固有性が高いと考えられますが、様々な地域活動を見ると、ホタルの生息していない河川から大量に採取して、あるいは、業者より購入してまでも放流し続ける等、ホタルよりもカワニナの「遺伝学的汚染・遺伝子攪乱」の方が進んでいると思われます。

  また、外来種の進入により生態系に大きな影響を与えることも危惧されています。

などの巻き貝が、国内の自然河川において50センチ四方当たり約1万8000匹が密集する程大繁殖しているのです。ホタル繁殖用として業者が販売したり、他地域から持ち込んだカワニナに紛れ込んでいた可能性も指摘されています。これら巻貝は、国の特定外来生物に指定されておらず、輸入や販売、移動が規制されていません。コモチカワツボについては、マスなどの淡水魚に食われても、生きたまま消化管を通過できることが知られています。川の流れに抗して遡上する能力があり、乾燥にも強く、水鳥の体にくっついて遠くへ運ばれる例も知られています。体は小さくても、高い分散能力をもっているのです。また、雄性発生で繁殖力が極めて強く、アユのエサになる川底のコケを食べたり、カワニナを駆逐したりするなど生態系の破壊につながる恐れがあります。
トウガタカワニナ トウガタカワニナ  ヌノメカワニナ ヌノメカワニナ
コモチカワツボ コモチカワツボ コモチカワツボ コモチカワツボ

関連記事:コモチカワツボの管理とコントロールプラン

  また更には、カワニナの移入に伴って外来種であるタイワンシジミが分布拡大している(園原2005.日本ホタルの会ニュースレター第32号)というのです。最初にタイワンシジミ(Corbicula fluminea f. insulalis)が侵入した経緯は依然として不明ですが、タイワンシジミの稚貝はひじょうに小さく、また粘着性の糸を持っているためにカワニナに付着していることがしばしばあり、カワニナの移入とともに分布を広げているようです。また、タイワンシジミは卵胎生、雌雄同体、雄性発生という繁殖様式を持っており、一個体でも水系に侵入すれば爆発的に繁殖拡大してしまい生態系のバランスを崩してしまう危険性もあります。
タイワンシジミ タイワンシジミ

ホタル飼育とホタルまつりにおける諸問題

3億円市場のホタルビジネス−ホタルの販売と乱獲−

  近年では、学校教育の場でも自然学習・環境教育の題材の1つとしてホタルを取り上げているところが沢山あります。学校によっては、飼育観察を通じて子供達と自然の仕組みや水辺環境を学んでいるところもあります。自宅でホタルを飛ばしてみたいという興味本位だけで飼育をされている方もいらっしゃいます。或いは、自然のない都会において子供達に見せてあげようと水槽でホタルを飼育していらっしゃる方もおります。また、全国各地で行われている「ホタルまつり」では、ホタルが生息していない汚れた3面コンクリートの河川で2,000匹ものホタルが舞い、何万人もの見物客が訪れる場所があります。料亭で食事をしながら庭園を飛ぶホタルを鑑賞できる所もあります。これら学校関係者、自治体、企業、個人の方々の中には、ホタルを購入しているケースが多く見受けられます。ホタルを手に入れようと考えた時、「捕る・貰う・買う」のいずれかの手段しかありません。購入する方法が、一番簡単です。

  ホタルの養殖販売業者は、インターネットで検索しただけでもかなり多くの数が存在します。個人でホタルを販売している場合もあります。そして、毎年その数は増え続けています。
  ゲンジボタル・ヘイケボタルの成虫や幼虫を、1匹300円〜500円で販売し、ホタルの飼育装置も販売しています。また、ビオトープの設計施工も行っている業者もあります。ホタル専門の他、観賞魚を扱う企業が販売しているケースもあります。需要の上に存在するわけですが、販売する側も、戦略上巧みな言葉や理論でユーザー獲得に向けて提案営業をしています。

  1. ホタル飼育し、ホタル生態を知り、環境を考えることが大切。
  2. ホタル飼育は、環境教育の一環である。
  3. 生物への慈しみと科学する心を同時に満たすことのできる格好の教材である。
  4. ただし、ホタルは、簡単に飼育出来る昆虫ではない。
  5. しかしながら、生態系を造って飼育すれば、累代飼育も可能である。
  6. この度、長年の研究の末、ホタル飼育システムを開発し、特許も取得した。
  7. 個人は勿論、学校、地方自治体等に多くの納入実績。
  8. 旅館、料亭、ホテル、地域振興団体、商工会、子供会、介護施設等でのホタル鑑賞会に最適。

  ホタルの飼育装置は、文字通り「ホタル飼育」というシステムの販売です。「飼育システム」とは、幼虫の生活する水中と上陸する陸地部分を一体化し、水換え等の手間を省くように水循環と濾過を機械的に行うもです。飼育システムの論理は、「誰でも簡単に・・・」つまり、「人のため」に開発されたものです。「幼虫の餌となるカワニナは国内では非常に品薄な状態ですが、国外からも独自のルートで輸入・・・」とコモチカワツボ等を輸入している業者もいます。

  ホタルそのものの販売は、「ホタルの商品化・家畜化」以外の何ものでもありません。その裏側ではオオクワガタのように「乱獲」も行われているのが現実なのです。ホタルを養殖するための種ホタルを乱獲しています。養殖だけでは供給が追いつかず、小学校や自治体、ホテルや旅館に沢山のホタルを納品するために、日本全国の自然発生地から乱獲しているのです。数年前に東京銀座の高級クラブで1匹5000円で売買されていたという話も聞きます。業者にとってホタルは「商品」にしかすぎません。法的規制がないために、乱獲や販売、遺伝子攪乱を引き起こす移動に対しても開き直る態度をとっています。また購入側では、遠方より取り寄せたホタルを放流するという行為もあり、先に述べた遺伝子攪乱の要素となっています。

関連記事  ホタル販売

ホタルを見殺しにする「ホタルまつり」

  全国的に各地で盛んに行われる「ホタルまつり」は、年々増加しています。東京の都心にほど近いある場所の「ホタルまつり」では、3面コンクリート護岸の河川に水槽で養殖したホタルと養殖業者から購入したホタル約2,000匹(成虫)を放流して行われます。このホタルは、産卵することなく死んでしまいますが、このホタルを見るために毎年何万人という人々が押し掛け、口々に「きれい!」「感動した!」と喜びます。これら現状の背後には、「ホタル」=「観光資源」=「地域活性化」という思惑があります。ホタルまつりは、ホタルへの興味・関心を呼び起こす効果も多少は果たしているとは思いますが、主催者側は単なる観光資源としか捉えていませんから、ホタルの生態を無視して、飛び回る河川の近くに露店を並べ、提灯を灯したりもします。また鑑賞者側も「ホタルが沢山飛ぶことだけしか評価していない」ので、主催者側は「ホタルが飛べばよい。」というレベルにとどまっているのです。他の地域では、ホタル保存会の会長が隣町のホタルを乱獲するということも行われ、違う意味での「ホタル合戦」が繰り広げられています。人々に見せるために、人々を喜ばすために、そして地域が潤うために、ホタルは利用されているのです。

  このホタルビジネスは、今や3億円市場とも言われています。自然環境から離された可哀想なホタルたちを見て、自然環境に思いを馳せるのでしょうか。そして真に癒されるのでしょうか。私たち現代人は、風情を感じる感性や価値観も、自然に対する愛情や危機感も失っているのではないでしょうか。

ホタルの流通(概略図)
図8.ホタルの流通(概略図)

ホタルの小川とビオトープ

本来のホタル生息環境とは、かけ離れた養殖システム

  ホタルが激減、或いは姿を消してしまった場所において、自治体の方々が中心となって大勢の方の努力で環境を改善し、その結果ホタルが再び飛ぶようになったという素晴らしいお話を聞きます。PTAやライオンズクラブの方々が一所懸命に取り組んでいる所もあります。一方では、ホタルがそもそも生息していない場所にホタルの再生としてホタルの小川やビオトープを造るということも各地で行われています。それらは旅館やホテルの庭園、老人ホームの屋上や企業の社屋受付にさえ存在します。しかし、ホタルの生態系は人工の小川やビオトープでは決して再生できないということを念頭に置いて、どこに、何(誰)のために、どのようにして再生するのかということをもう一度考える必要があると思います。

  そもそも「ビオトープ」とは、ギリシア語の「bio(いのち)+topos(場所)」語源とする造語でドイツで生まれた概念であり、生物群集の生息空間を示す言葉です。様々な種類の生き物が、自分の力で生きていくことのできる自然環境をそなえた場所がビオトープであり、「里山」そのものも代表的なビオトープです。しかし昨今では、飼育環境や箱庭を「ビオトープ」と呼ぶことの方が多く、生態系の安定性を意図するものではありません。

  ホタルを再生しよう(したい)という動向から、造園業者や建設業者、バイオ関連企業によるホタルの小川やビオトープづくりも多くなってきています。ホタル再生プランとしてホタルの小川やビオトープづくりを推奨し、設計、販売、或いは指導している側は、例えば「ホタルの生態もだんだん解明され、生息条件を整えることができるようになった。水槽だけでなく、人工川での実験でも大きな成果あげている。これまでは、湧水の流れる地域や里山でしか見られなっかったホタルが、新開発のバイオ用土や炭素繊維、濾材による水浄化システム導入により身近な生活圏の中でも見ることができるようになった。ホタルの舞う公園も実現可能である。」等々を宣伝文句として、環境フェアで展示し自治体や学校、養護老人施設等に導入しています。そして、これらの中に次のような事柄が含まれている場合があります。

  1. 特許を取得し商品化された特殊用土(バイオ用土)を販売する。
  2. ホタルの成虫・幼虫を販売する。
  3. カワニナ用の人工飼料を販売する。
  4. 細かな継続指導がない。
  5. 指導内容が、幼虫を大きくなるまで水槽で育てて放流するものである。
  6. 羽化した成虫は捕獲して採卵する。
  7. 岸辺に簡素なホタル護岸を施すだけである。 など

みせかけだけのホタルの小川 図9.みせかけだけのホタル小川の一例

  1の特殊用土は、主にホタルの幼虫の上陸用土として用いられます。ホタルの羽化率だけを追求する人工的な養殖には効果的な数値をはじき出すものですが、高羽化率の必要性があるのでしょうか?ホタルが自然発生している環境に、特殊な土はないのです。ホタルの生態と生息環境における生態系を理解するならば、特殊な用土は全く必要ありません。ホタルのためではなく人々のために開発されたものと言っても過言ではありません。環境再生・改善のひとつの材料としては利用価値があるかもしれませんが、それだけに頼るのは間違いです。業者としては利幅も大きいのでしょう。売り込みたいのは当然です。2のホタルの生体販売は以ての外です。3〜7においては、ホタルの自然繁殖はどうでもよく、ホタルが飛べばよいという生態学的知識のない場合が多いのです。これらは、先に紹介した「ホタル飼育システム」が大きくなっただけのことです。みせかけだけのホタル小川、ビオトープなのです。
  昨今では、「屋上ホタルビオトープ」も開発されています。これは、都市部のヒートアイランド現象を抑制するための対策の一つとしての屋上緑化が、国や一部地方自治体から補助金を受けられることや、敷地面積1,000 m2以上の新築建物については屋上を20%以上緑化することを義務付けた(東京都条例)ことにより需要が高まり、急速に普及し始めていることに目を付けた企業が設計・施工・販売しているものです。

  「ホタルビオトープを設置してホタルを飼育することが、自然環境を考える企業」という誤った認識から、CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)の一環として、または企業イメージの向上のために取り組む企業が増加していますが、これらは、ホタル保護でも自然環境の保全でもありません。ホタルを呼び戻したいと願う方々は、ホタル飼育養殖の専門家の方々でなく、ホタルの自然発生地で一晩中這いつくばってホタルの生態や生息環境を研究しているフィールドワーカーに相談するべきだと思います。

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ホタルは、人が直接育てるものではなく、自然環境で育つものです。ですから、私たちは人工的なホタルビオトープを作ってホタルを育てるのではなく、ホタルを育てる里山環境を保全したり、再生することに努力しなければなりません。

地権者の利害/ワーキングプアと限界集落

  ホタルの生息している場所を守りたい、環境全体を保全したいと真剣に思っても、それを具体的行動や活動に移すには、まず乗り越えなければならない大きな障害があります。ホタルの生息地のほとんどは私有地であり、保全環境全体に至っては場合によっては数十人の地権者がいます。地権者の方々すべてが賛成しなければホタル保護活動は進みません。
  しかし、地権者の方々は、どちらかと言えば保護保全活動に関して消極的です。農業をやられているのであれば、場合によっては農法を変更しなければなりません。ホタルがたくさん飛ぶと評判になれば多くの人々が訪れ、それを迷惑に思うのも当然でしょう。どんなに優れた環境であっても、固定資産の価値しか認めない方もいらっしゃいます。休耕田は、生活のために企業に売却することもあるでしょう。ある田舎の農家では、およそ1haの稲作の収支がゼロであると言います。規制緩和による米価格の自由化で販売競争が激化し、品質向上とコストダウンが強いられています。家族経営の農家においては、農作物は天候・気候に左右され安定した収穫が望めない上に、農薬の値上がりや農機具のローン返済などが経営を圧迫し、ワーキングプアに悩み苦しむ場合も少なくないのです。また、農業をやめて他の土地に移り住む人々も多く、山間部の集落では過疎化・高齢化が進み、水田や里山は放置放棄状態となります。こうした限界集落は、「限界集落における集落機能の実態等に関する調査」(2006年3月)によれば、全国で1403集落と推定されています。
 実際に保全活動が進んでも、地権者の方々の利益には結びつきません。それどころか、面倒なことばかりなのです。利益に結びつけるならば、ホタルは見世物の範疇に止まってしまい、本来の生態系を考えた保護にはなりません。外部(個人・市民団体・行政)の人間が「ホタルと環境を守りたい、守ろう」と思うのは、環境上、生物多様性上いかに重要なことであっても、地権者の方々にとっては勝手な戯言である場合もあるのです。

  農家の方々に対しては、国や地方自治体、企業、組合などが、自然環境保全を視野に入れた自然農法による農業経営りノウハウに関するコンサルティングを行い、販売・流通・生産にわたる包括的なシステムを構築するとともに、政策上の支援や資金の援助などにより農業経営の活性化と安定化を図らなければ、水田や里山、いわゆるホタルの本来の生息環境の存続は難しい地域もあります。或いは、NPO法人などが休耕田や谷戸全体を借り受けたり、購入して、保全活動を進めることも重要であると思います。更には、地域全体の活性化も必要です。

  実際に地権者の方々全員に理解していただき、ホタルをはじめ里山全体の保全活動を進めている人々もいます。勿論、地権者の方々の中からホタルを守ろうという声が上がり、豊かな環境が存続している地域もあります。
 しかし、里山全体の生態系を維持管理することは容易なことではありません。ごく限られた範囲での人工河川やビオトープ、庭園での擬似的なホタルの里つくりが進むのは、こういった問題があるために、本来の保護・保全活動ができないという背景が隠されている場合も少なからずあるのです。

  ホタルの生態から、生息条件、生態系を含めた環境がすべて整っているのは、かつての「里山」です。ですから、「ホタルは里山環境の結晶」と言えるわけですが、かつての里山の保全や再生も難しい状況になり、豊かな生態系が背後にない環境において人工的なホタル養殖が盛んに行われるようになれば、ホタルは里山環境の結晶ではなくなり、ホタルを通じて自然を学ぶことさえ出来なくなってしまうかも知れません。

  ホタルを守るということは、一番の天敵である「人間の身勝手さ」から守るということかも知れません。
「人のため・・・」、つまり人にホタルを見せるためが優先された場合は、ホタルの保護や自然環境の保全とは、必ずしも一致しないのです。何よりも、まず「ホタルのため」を優先させなければ、ホタルは里山という豊かな自然環境、生態系の結晶でも自然環境のバロメーターでもなくなってしまうかも知れません。「人が見て楽しむために、生態系を無視して人の手によって養殖されている昆虫。」になってしまいます。

ホタルのためか?それとも人々のためか?

皆さんは、ホタルのために何ができますか?

  現代人がホタルに求めているものは何でしょうか。ホタルを見に大勢が集まる現象は、何を意味しているのでしょうか。ホタルを見ると、清流や田園などを連想します。私たちは、ホタルを通じて豊かな自然を求め、癒されたいと願っているのではないでしょうか。しかし、昨今のホタルブームを見ると、ホタルの生態や生息環境をよく理解して、生態系全体を保全しようとする地道な保護保全活動が行われる一方で、下記に表すように、ホタルのためではなく、人々のために利用されていくことも続いていくかも知りません。

  近年、特に東京に住む私たちは、自然に触れる機会が非常に減っています。自然を知らなければ、自然とどのように付き合えばよいのかも学べないでしょう。そして、自然を知らない子供が大人になった時、その子供達に教えることもできません。是非とも、本物の自然の中に積極的に出かけていき、様々なものを観察し、学び、感動していただきたいと思います。そして、それらを親子で体験し、自然について話し合っていただきたいと思います。里山再生のボランティアに参加するのも良いでしょう。観察会等に参加するのも勉強になります。

  また、ホタルを最初に見に行く場所ならば、必ず日没前のまだ明るい時間に行くべきです。なぜなら、ホタルの生息している自然環境というものを見ていただきたいからです。そうすることによって「ただ、美しい、なつかしい・・・」ではなく、周りの自然環境にも目を向けて、この生態系あってのホタルであるということが、よくわかると思うのです。自然の大切さも理解でき、守ろうという気持ちも湧いてきます。

  自分の住んでいる近くにホタルが飛んでいなくても、ホタルや自然を守ることに参加することは、いくらでもできます。普段の日常生活の中でも環境保護のために配慮しなければならないことはたくさんあります。例えば、大量にゴミを出す消費社会を見直し、ゴミを減らす工夫や分別して出す努力をしたり、洗剤は環境にやさしいものを使ったり、無農薬栽培のものへのこだわりや不法投棄する企業への厳しい目を持つことなども、環境保護への第一歩です。更には、異常気象の原因になっている地球温暖化を防止することも重要です。冷暖房の設定温度1つでも効果があります。自動車を運転する方は、エコドライブの技術を学び実践することも有効な手段です。
こうしたことの積み重ねが、自然環境を保全することになり、結果としてホタル保護にもつながるのです。

参考及び引用文献

  1. 鈴木浩文、佐藤安志、大場信義、  2000.ミトコンドリアDNAからみたゲンジボタル集団の遺伝的な変異と分化/第33回全国ほたる研究会誌 30-34
  2. 鈴木浩文 2001.ホタルの保護・復元における移植の三原則−東京都におけるゲンジボタルの遺伝子調査の結果を踏まえて−/第34回全国ほたる研究会誌 5-9
  3. 鈴木浩文 2004.ホタルの系統と進化−ミトコンドリアDNAからのアプローチ−/昆虫と自然 39 (8)

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