ホタル百科事典/ホタル再生の具体的方法
私たちは人工的なホタルビオトープを作ってホタルを育てるのではなく、ホタルを育てる里山環境を保全したり、再生することに努力しなければなりません。
里山は純然たる自然ではなく、人が手を加えながら維持してきたシステムです。里山は「保護」するのではなく、積極的に「活用」すること必要です。「自然保護」という思い込みでは、里山の衰退・危機を招き、里山の再生は実現できません。里山の経済価値を再評価し、里山が持続可能な形で利用されるような戦略を立てることが重要です。里山再生のための管理については、その地域をどのような谷津田環境にしていくかの保全目標を場所、地域ごとに立てることが大切です。その場合、人の利用だけでなく、野生動植物を含めた生息、生育環境という視点が必要です。管理主体としては、地元区市町村、都民・NPO等を活用し、企業の協賛も望まれます。
林床に繁茂したアズマネザサやアオキなどの常緑低木の下刈り、スギ・ヒノキは劣勢樹除伐・ツル切り実施により広葉樹林化を促進し、間伐・萌芽更新により雑木林を管理していくことが必要です。
谷戸奥の水源となる湧水を保全し、この水を水田に引くための素掘りの水路を維持しながら、水田とともに谷戸田としての水田・湿地環境を再生することが大切です。放棄水田を湿地として再生する管理手法の1つである、いつでも水田にもどせる湿地の状態として管理しながら休耕する(管理休耕)は、通常の水田づくりの工程のうち、畦づくり、田起こし、代掻きまでとして田植えを行わない状態で維持管理する方法で、湿性植物群落の再生が可能です。
ホタルの発生地の生息河川の改良及び、止むを得ない事由によりホタルの小川づくりを行い、ホタル再生しようとする場合は、ホタルが自然発生する豊かな生態系を含む環境作りを基本にしなければなりません。これは、「ホタル水路」だけを作ることではありません。これらは、前項に示したような詳細な環境調査と分析、そして改善策に基づいた計画によってなされなければなりません。
上に示した図は、ホタルの生息環境の理想的な景観構造を基にした、水田脇を流れる「ホタルの小川」の復元再生をする場合の概略図の一部と完成した小川の写真です。
ホタルの小川の復元再生は、その河川の規模により工法も様々です。川幅が50cm程度のものから、場合によっては数m以上の河川もあるでしょう。かつては、「ホタル護岸」と呼ばれる河川改修工法がありましたが、現在では、近自然河川工法というものも開発されています。工法は、ホタルの生息地や造成しようとする場所の環境状況によって判断すればよいと思います。
よく、U字溝にきれいな水を流してカワニナを入れればホタルの小川が完成すると思っている方がいらっしゃいます。都市部にある学校の校庭や公園の「ホタルビオトープ」や人工河川によく見られますが、このような場所では、ホタルの幼虫を3月まで水槽で育てて大きくなったら放流するという方法がとられています。しかしながら、これらは放流を止めてしまえばホタルは羽化しません。
ホタルの小川の復元再生は、生物多様性復元の総合的な環境条件を整えることが必要です。流れでは、流量・流速を計算し、蛇行と段差を設け、底質は砂礫の上に浮き石を設けること。そして水辺では、土壌を保水・排水・通気状況に合わせて自然土のみを使って改良し、植生選択やコケの生育にも気を配ります。また、地形と植生により空中湿度を保ち、飛翔空間を造り出します。更に周辺環境では、雑木林の間伐や下草刈り、休耕田を水田に変え無農薬耕作或いは不耕起栽培を行います。こうしてようやくホタル再生の第一歩、すなわちホタルのすめる環境(生態系)の底辺ができるのです。
決して、どの場所でも「自然発生するホタルの舞う環境」が再生できるわけではありません。大切なことは、ホタルの生態を理解し、その生活環境すべてを再現することにあります。これは河川のみならず周辺環境すべてを指します。まずは、事前のしっかりとした環境調査によって、判断していただきたいと思います。
私は、ホタルのための研究活動をしております。 東京ゲンジボタル研究所/古河義仁
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