ホタル百科事典ホタルの飼育と観察日誌

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの飼育と観察日誌(2005年)

★ 目 的

産卵、卵の成長の観察、孵化の写真撮影のために飼育する。 孵化後は、採集した生息地に放流。

2005年5月5日

 都内の一部では4月中旬にすでに上陸を確認しているが、半人工飼育の小川で、そこは発生も毎年早く、上陸もほぼ例年通りということである。自然の生息地では、4月からなかなかまとまった雨が降らず上陸が危惧される。しかし、明日は午後から雨という予報に、絶対に上陸すると確信を持った。

2005年5月6日

今日は、雨は12時頃から少しであるが降り始め、15時頃にはいったん止む。しかし、17時頃からまた降り始める。青梅市のある生息地に行ってみた。昨年はかなりの乱舞が見られた場所である。19時30分に到着。雨は、しとしとふっているという状況。小川では、すでに幼虫の上陸が始まっていた。水際から陸地に上がった途端に発光を始める。ゆっくりとあちらこちらへと歩いている。見渡すと、いろいろな場所で上陸をしている。どこでもいいから今いる水中から一番近い陸地に、とりあえず上陸してみた。という感じである。例えば、水際は砂利ですぐ草が生えていても、そのすぐ先は約2mの石垣になっている場所でも、上陸したら、その石垣を必死に登っている。水際、砂利、草地・・・運の良い幼虫もいる。2時間ほど観察していたが、幼虫は移動するのにかなりの時間をかける。1時間で1mも移動すれば速い方である。全体で約100匹ほどが上陸をしていた。
平均気温の推移
降水量の推移
 今年は、昨年と同じように4月下旬にほとんど雨が降っていない。昨年も5月上旬に幼虫は上陸しているのだが、発生は6月19日前後がピークであった。(全体的に例年よりも早い傾向にあった。)今年は、5月の気温の高さで発生が時期が判るだろう。

本日からの毎日の平均気温(地温)−8.02の積算>408.2・・・降雨後気温17℃以上の日が発生である。

2005年5月7日

 今日は、ホタルの生息地2ヶ所を訪れてみた。最初に行った場所は、例年の発生が7月上旬頃と都内でも遅い生息地なのだが、天候が午後から晴天になったからか、或いは上陸にはまだ時期が早いのか、20時近くになっても幼虫の上陸は観察できなかった。続いて、昨日観察に行った生息地に訪れた。20時半頃の到着となる。数は少ないが、上陸しているではないか。上陸の最初は、必ず編めが降っていなければ上陸しないが、その後は晴天でも上陸するのである。ただし、水中から新たに上陸している幼虫もいたが、ほとんどが昨日中に土中に潜れなかった幼虫が再び石垣を登っているという様であった。これは、飼育水槽の観察と同様である。天気がよく乾燥気味の本日は、上陸した幼虫のほとんどは上まで登らずに、川面から20〜50cmの所をうろうろしている。石垣は、幾分草も生えてはいるが、石の間はコケで埋め尽くされており、土の部分は全くない。幼虫の中には、水中へと引き返すものや茂みへと姿を隠すものがほとんどであった。次の降雨はいつになるのだろうか・・・。

2005年5月9日

 里山の写真撮影とホタルの産卵用のコケの採集を行う。今回は、なるべく自然と同じような状態に産卵してもらうための下準備である。コケの種類はハイゴケである。産卵に適しているものを選び、一緒に少しコケの生えた10cm大の石も持ち帰った。上手く産卵してもらうように、石の垂直部分にコケを這わせ、定着させるために糸でくくりつけた。そして水を少しだけはった水槽に入れ、半日陰に置いた。来月の産卵時期までに石に張り付いて、きれいなコケ石になってくれるといいのだが・・・。水面に対して垂直部分のコケに産卵するのが通常の行動である。いいものが完成すれば、産卵時の写真や孵化時の幼虫のジャンプの写真などが撮影ができると思う。

2005年5月17日

 石に巻き付けたコケは今のところ青々としていているが、まだ定着はしていないと思う。新芽が出始めて伸張してくればOKだろう。コケの栽培方法にはいくつかあり、後日ニュースレターにてまとめてみたいと思う。

2005年5月19日

 昨日までの5月の平均気温をグラフにしてみた。昨年と比較して10日を境に低い日が続いている。6日に上陸し順調に前蛹期を過ごせると思いきや、いきなり低温続きで積算温度の計算から発生予想もできない状況である。今年の発生は遅くなるかも知れない。

5月の平均気温の推移(2005年)

2005年5月28日

 石に巻き付けたコケが、ようやく新芽を出し始めた。コケは朝日を浴びながら空気中の水分を使って光合成を行う。空気中の微量元素も取り入れている。だから、コケは朝霧が立ちこめる場所に多い。日中の直射はコケの種類にもよるが、ほとんどは半日陰を好む。強い直射日光の元で水分を与えると、葉内の温度が上昇して蒸れてかれてしまう。自然界では朝の光合成が終わると葉を縮めている。コケを栽培するには、朝日と水分、その後は半日陰で乾燥しない、蒸らさないが基本のようである。毎朝早くに、霧吹きで水分を補給するのは少々面倒くさいが、何とか定着しつつある。ホタルを産卵させるまでには、いい感じに生えてくれるだろう。そのコケに産卵してくれれば、いい写真が撮影できるだろう。

2005年6月01日

 5月の平均気温の推移と積算温度、降水量の結果をまとめてみた。

5月の平均気温の推移(過去5年間)
 5月の平均気温の推移(2000年〜2005年)

5月の積算温度(過去5年)
 5月の積算温度(2000年〜2005年)

 過去5年間のデータと比較してみると、2005年は中旬頃に異常な低温が約1週間ほど続き、1ヶ月を通してみても全体的に低い。また、1ヶ月の積算温度も過去5年で最低の温度になっている。

5月の降水量
 5月の降水量(2004年/2005年)

降水量については、合計81mmで、やはり過去5年で最低になっており、昨年と比較しても降雨日が13日:10日と少ない。また、1日中降り続いていた日は月末だけで、それ以外は夕立という状況である。降雨日に関しては、降ってから次に降るまでの間が10日も空いていない。また、気温も少しずつ上昇傾向なので有効積算温度の法則から、後に上陸した方が先に上陸した幼虫よりも若干短い期間で発生すると思われる。よって全体的に比較的まとまって発生するのではないかと思われる。

2005年6月18日

 積算温度から、そろそろ発生すると思われた生息地に行ってみた。すると20〜50匹ほどが飛翔していた。メスの発生はまだないようである。昨年よりも、ちょうど1週間発生が遅くなっている。5月に上陸を観察した場所では、もう一ヶ所では、まだ発生していなかった。計算上もまだである。有効積算温度は、ほとんど間違いないと言えそうである。

2005年6月26日

 今年の発生時期は、生息場所によってかなりの差がある。すでに最盛期を過ぎた場所や、ようやく発生してきた場所、まだ全然発生していない場所もある。昨年は以上気象(気温が高い)で全体的に早い発生であったが、昨年に比較して1週間ほど遅い所と、2週間遅い所もある。5月上旬の上陸時期の降雨不足も影響していると思われる。
 昨日、卵と孵化までの写真撮影のためにメス1匹,オス4匹採集した。石にくくりつけたハイゴケは石全体を覆うほどまで成育したので、水槽の中央に煉瓦を置き、その上にコケのついた石を設置した。脇には、ヨモギを配置し、コケ石の一部を覆うようにした。上手く、コケに産卵してくれるとよいのであるが・・・
 午前1時、オスの成虫は飛ぶことなく水槽の中を歩き回っていた。強く発行することはないが、そのかわり、ずっと弱く発光し続けてながら歩き回っていた。発光は5,6節2つではなく5節目のみ、しかも、幼虫のように節の両端を弱く発光させていた。遠くから見ると、幼虫が這い回っているかのようであった。

2005年6月28日

 石に生やしたコケに産卵を確認。細かくは探していないが、それほど数はなさそうである。またメスの腹部が、あまり大きくふくらんでいないので、メスを採集した時点で、すでに産卵をしていた可能性がある。卵は、石の垂直部分に生えたコケの一番下の方の一角に産み付けられていた。これで、これまでにない卵のクローズアップ撮影ができるだろう。

2005年7月02日

 6月26日に数匹の発生が見られたO地区は、およそ100匹でメスも発生していた。
有効積算温度の計算から、今日と明日がピークとなると思われたが、実際にそのようである。O地区を後にしてU地区にも行ってみた。昨年は既に乱舞していた日であったが、本日は50匹以上は発生していたと思われる。到着時間が21時を過ぎていたために飛翔数はほとんどなかったが、木陰で光っているホタルが多く観察できた。しかし、まだ出始めとと思われる。こちらの有効積算温度の計算では、7月2日(本日)が発生日であったが、ほとんど計算通りといえるのではないだろうか。こちらは、上陸日が5月23日と31日であるから、ピークは7月6日〜10日前後ではないかと思われる。
これで、有効積算温度からの発生日予測は、誤差1〜2日以内の精度で当たっていたので、信憑性が高くなったと思われる。O地区では、メス2オス4合計6匹のホタルを採集した。先週採集したメスがほとんど産卵しなかったので、どうしても、コケ一面に産卵して欲しいことからである。
 更に、ヒメボタルの生息地にも行ってみた。昨年は、大発生していた日であるが、こちらはまだ未発生であった。予測は難しいが、5月と6月の積算温度が一昨年とほぼ同じであるから、7月10日前後がピークと思われる。(一昨年も7月10日前後)
 U地区は、どちらも来週末がピークと思われる。

2005年7月10日

 U地区のゲンジボタルは、かなりの数が飛翔していた。ここは、深い谷に流れる渓流であり、ホタルは渓流のすぐ上はもちろん、川面から10m以上も高いところを飛ぶオスもいる。崖に生えている大木の茂みが、ホタルの休息場所になっているが、ここも川面から10m近くある。また、少し上流では、渓流に覆い被さるように生えている樹木の間を飛び交うという所もある。その場所の地形によって、特にオスの飛翔範囲や行動が大きく異なっている。いずれの場所も湿度の高い風が吹き抜けない地形になっている。

2005年7月20日

 本日、幼虫の孵化を確認。深夜から早朝に孵化したと思われ、数はちょうど50匹である。これらは、6月28日に産卵した卵からの孵化で22日目になる。
四六時中、室内の日陰に設置していたため、平均気温が約25℃〜26℃と高かった。
(T−9.3)℃×D日=357.4℃日 という有効積算温度の計算にも合致している。
産卵が1日で終了していないので、今後、数日にわたって孵化が続くと思われる。
 7月02日に採集したメスが産卵した卵は、産卵から15日経過したが、まだエンブリオは確認できない。しかし、真っ暗にしてみると、ようやくわかるくらいの弱い発光が確認できた。これらの卵もあと1週間くらいで孵化するだろう。

2005年7月21日

 本日の幼虫の孵化は、55匹で合計105匹になった。孵化した1齢幼虫は、刺激を受けるとほんの一瞬だけ強く発光する。

2005年7月22日

 後から産卵した方がようやくエンブリオが確認できた。18日目である。

2005年7月25日 飼育観察の終了

 昨日から孵化が始まった。こちらは20日目である。卵の殻を通してエンブリオが確認できてから孵化するまでは、2〜3日でとても短い。
孵化した幼虫は、コケの先端まで這っていき、尾脚で捕まりながら体を伸ばしたり反らしたりする。観察した幼虫は、先端から水中へダイビングはしなかった。コケの下側に回り込んで根元の方へ這っていき、更に下のコケへと移動して水中へ入っていった。

この数週間で、卵の初期、中期、後期、孵化、そして発光の写真を撮影できた。
はじめてオートペローズを使用し、これまでにない拡大率と瞬間、そしてシャープな画像が得られたと思う。


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