ホタル百科事典/ホタルの生息環境4.

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの生息環境/ハケの湧水地

  前述の「里山の谷戸」と「低山地の渓流」が、現在自然発生している地域環境ですが、この他に、過去に自然発生していた地域(現在は、人為的な水路整備と養殖などによって発生)として、「ハケの湧水地」という環境を挙げておきたいと思います。

ハケとは

  東京の地形は,数十万年前の地層からなる多摩丘陵,約12万年前の武蔵野と呼ばれる古い扇状地・河成段丘とそれが削られた谷,そして下町低地という構造になっています.武蔵野の地下には水を通しやすい地層があり,削られて崖になっているところがハケあるいはママと呼ばれています。
青梅市あたりを扇の要とする「古多摩川」が、70万年〜40万年前に大氾濫を繰り返し、その氾濫域が扇状に砂礫(洪積層)を広げました。更に、その上に40万年程をかけて赤褐色の関東ローム層が堆積し、現在の基本地形を作っています。(関東ローム層とは多摩ローム層、下末吉ローム層、武蔵野ローム層、立川ローム層などの総称であり、東京の西側にある箱根火山や八ヶ岳の火山灰が偏西風に乗って蓄積したものです)。この関東ローム層によって出来上がった台地は東京湾に近い方が概ね古く、大田区の荏原台、田園調布台は35万年〜15万年前に形成され、世田谷区などの武蔵野台や目黒台は15万年〜2万6千年前の形成、喜多見のある「立川台」は2万6千年〜1万年前の形成と言われています。多摩上流の拝島台、秋留台などの形成は1万年より新しいと言われています。そして、約5万年前頃から海面が低下して、当時岸辺であったところに段差を作りながら、多摩川が多摩丘陵側(南西方向)へ移動し、その時に出来上がった段差が国分寺崖線ですが、その後も箱根火山や八ヶ岳の火山灰が降り続き、多摩川が移動した跡に関東ロームが堆積し「立川段丘」が出来上がったと言われています。このような関東ローム台地に野川、仙川、石神井川、善福寺川、神田川、目黒川などの小河川によって谷間が作られ、そこに沖積土によって谷底低地が作られていきました。。世田谷区内には谷底低地を示す代沢、北沢、駒沢、奥沢、野沢、深沢、粕谷、祖師谷という地名があります。

これらの段丘崖は斜面地としての地形的に特異なだけでなく、段丘面上に降り注いだ雨が湧きだしてくる湧水とが一体となった特異な地形です。かつては、台地、ハケ、湧水、農業用水路、水田、多摩川で構成されており、これらが多様な環境をつくっており、また、ホタルをはじめとする様々な昆虫(現在は生息していない)が生息していたと想像出来ます。例えば1930年頃には、ベッコウトンボ、タカネトンボ、ホンサナエ、サラサヤンマ、カトリヤンマ、コシボソヤンマ、ヤブヤンマが府中市でも普通に見ることが出来たという記録が残されています。
また、青柳段丘のれき層の下の青灰色泥岩(上総層群)は、100万年前に浅い海に堆積した貝化石を多く含んでいるために、そこから流れ出る湧水には、カルシウム分も多く含まれており、現在でもカワニナが生息しています。

国分寺崖線の断面図  図.国分寺崖線の断面図

ハケとホタル

  立川崖線、国分寺崖線ともに住宅がすぐ近くまで立ち並び、環境悪化が進んでいますが、現在でも崖線上には木々が茂り、「日本の名水100選」に選ばれている「国分寺・お鷹の道」をはじめとする幾つもの湧水は清楚な流れを生み出しています。特に、国分寺崖線からの湧水が多く、それらは野川となって多摩川に注いでいます。これらの湧水からの小さな流れは、幅が1m以下がほとんどで、水深も2cm〜30cmくらいで、水底は泥や細砂になっています。特に泥部においてカワニナが多く見られます。かつては、この小さな流れにホタル(ゲンジボタル・ヘイケボタル)が自然発生していました。現在でも、水路の整備や養殖放流などによって下図の印でホタルを見ることができます。

崖線とホタルの発生地図
図.崖線とホタル発生地

  図からも解るように、国分寺崖線に沿うようにホタルの発生地(飼育地)があります。以前は、もっと多くの、更には野川にも沢山の生息地があり、1975年頃には、調布市深大寺付近でもゲンジボタルが自然発生していましたが、今日では見ることは出来ません。
また、野川が多摩川に注ぐ手前に当たる世田谷区(成城)では、現在でもゲンジボタルを見ることができます。

ホタルの生息するハケの湧水
写真.ホタルの生息するハケの湧水


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