ホタルの卵のクローズアップ写真や蛹の発光する写真などの生態写真は、ホタルの生態学、昆虫学上重要な記録写真となります。しかし、ホタル写真の面白さ、奥深さはこれだけではありません。夏の宵にホタルが舞う光景を美しく収めたホタルの風景写真は、写真としての芸術的な価値もあります。
ホタルの成虫が飛んでいる光の跡だけが真っ暗なバックに写し出された写真や、背景が写っていても昼間のように明るくなってしまった写真をよくみかけますが、ホタルの数や景色は分かっても、これでは何か物足りない写真になってしまいます。芸術性を求めるのであれば、構図や色も大切になります。自分で形作るものではなく、そこにある場面を切り取るわけですし、ましてホタルが飛んでいる場所となりますと、「絵」になる所は多くはないかも知れません。明るい時間に現地に到着し、カメラを三脚に固定して構図どりを済ませておく必要があります。色は、フィルムと露光時間に左右されますから、何枚も撮影して自身のカメラとレンズ、フィルム感度、生息地の照度との関係をデータとして蓄積しておく必要もあるでしょう。
また、背景を明るい時間に予め撮影しておき、後からパソコンでホタルの光を合成するという方法が、デジタルカメラでの撮影では主流になっていますが、どうしても不自然な感じになってしまいがちです。ホタルが実際に飛翔している時間帯との光線、明暗がまったく違うからです。合成写真は、ホタルの光跡もいくらでも増やすことができます。創り出したものは作品にはなっても、信憑性が疑われる可能性もあります。”写真は空間芸術であり、時間芸術である”とするならば、多重露光やパソコンでの合成という不連続の時間を一枚にまとめて見せるのは、どんなに見た目に美しくとも”写真”としての芸術的価値や”ホタル写真の生態学的価値”はありません。すべてをシャープに写すことではなく、その時間の情景をいかに表現するかが大切だと思います。
渓谷を飛ぶゲンジボタル/オリンパスOM−2 ズイコ−50mmF1.8 EPJ-135
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上の写真は、東京都内の渓谷で自然発生するホタルを撮影したものです。ホタルが群舞しているならば、それはすばらしい環境であり、またたいへん美しい風景であり作品ですが、東京のホタルは、西日本の群生地とは比較にならないほど少数です。しかし、この東京でもホタルが舞います。残されたわずかな自然環境において、ホタルは、自らの力で生き抜いて飛び交うのです。(ホタルの写真/ゲンジボタル生態写真集)
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