ホタル百科事典/ホタルの生態2-1.
ホタルの生態とは、ホタルがどのような場所で、どのような形で、どのように一生を生活しているのかということです。
ホタルの生態を見る上で、まずホタルが変態する昆虫であるということを知る必要があります。昆虫が卵から幼虫や蛹を経て成虫にと著しい形態的変化をする様子を変態といいます。この変態をすることによって幼虫期と成虫期とで、まったく異なった栄養源で生長できるといった特質があります。また、もっとも都合の良い姿で過酷な季節を過ごすといった適応性も変態によって得た特質であるといえます。この変態という有利な生活手段は、他の動物にはほとんど見当たりません。では、ホタルの場合はどうでしょうか。卵から孵化した幼虫が、脱皮を繰り返した後、蛹を経て成虫へと変化するいわゆる「完全変態」を行う昆虫です。ホタルの生態は、それぞれの変態の過程でまったく異なった形態を示しており、生活空間もそれぞれ異なっています。
ホタルの生態においては、ホタルの棲む生息環境も重要なポイントです。ホタルが棲んでいるということは、そこに棲む環境が用意されているからです。その環境とは生活しているホタルを取り巻いているすべての事象で、無生物的要因と生物的要因とから成っています。また、言い換えればそれは生態系ともいるでしょう。無生物的要因には、温度 ・ 光 ・ 水 ・ 空気 ・ 土壌 ・ 地形などとそれに伴う気候的要因が主体となってホタルが生活していく上に影響を与えています。生物的要因には、その生活空間における生物群集と食物連鎖を挙げることができるでしょう。この自然の中に用意された生態系の中で、四季の変化に合わせて、実に多様な生活環をくりひろげています。
図.里山におけるゲンジボタルの生活環
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ゲンジボタルの成虫は、6月中旬から7月上旬(東京地方)にかけて山間部の渓流や谷戸田を流れる小川などに美しい光を放ちながら飛び交います。交尾をすませたメスは、水辺のコケなどに産卵をします。孵化した幼虫は、驚くべきことに水中に潜りそこでの生活を始めます。ホタルのほとんどの種類が一生を陸上で過ごすのに対し、ゲンジボタルとヘイケボタル、クメジマボタルの3種類の幼虫だけが水生です。おそらく陸生のホタルのある一群が、食餌の転換に伴って水生へと進出したものと考えられます。幼虫は、巻貝の一種であるカワニナの肉を溶かして食べます。終齢を迎えた幼虫は4月中旬頃になると蛹になるために岸に上がり、土の中に潜り、土で繭を作り蛹化します。そして、時期がくると羽化し、地上に現れて飛び立ちます。変態を行うごとに生活空間を変えるゲンジボタルは、ホタルという種類の中で異例であるばかりでなく、完全変態を行う昆虫の中でもとてもまれな例であります。このことは、生き延びるために環境に適応した結果であると同時に、どれか1つでも汚染されれば、例えば水質汚染、あるいは護岸工事によって蛹化する陸地がなくなることによって全滅するといった結果をもたらすことになってしまったと言えます。これが、ホタルの生態の概要です。
では、これから成虫、卵、幼虫、蛹それぞれの「ホタルの生態」についてくわしく見ていくことにしましょう。