ヒロオビミドリシジミ(Favonius cognatus latifasciatus)は、シジミチョウ科オオミドリシジミ属(Favonius属)のゼフィルスで、京都府北部から山口県にかけての中国山地にのみに局所的に分布しており、食樹であるブナ科のナラガシワを主体とする低山地の雑木林に生息している。
ヒロオビミドリシジミは、開発等による雑木林(生息地)の消失や里山の放棄放置による生息環境の悪化、そしてマニアや業者による採集・乱獲によって減少しており、環境省RDBには記載がないものの、京都府、大阪府、兵庫県、広島県、島根県のRDBで絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。
オオミドリシジミ属のオスの翅表の色は、ジョウザンミドリシジミやハヤシミドリシジミのように青系統が多いが、ヒロオビミドリシジミの翅表は、黄色味が強い金緑色で、特に後翅で顕著である。
ヒロオビミドリシジミの撮影は、当初、6月13日~14日を予定していたが、今年は昆虫類の発生が全体的に早い傾向にあり、6日と7日が晴れの予報で、一週間後の天気が不確実であることから、急遽、予定を変更(ホタル観察をキャンセル)して、ヒロオビミドリシジミの生息地である大阪の能勢町にある三草山に向かうことにした。
5日(金)、帰宅後にすぐ出発して片道550kmを6時間かけて走破し、現地近くの道の駅で仮眠。昼前には現地を引き揚げて、帰路に就くという強行軍である。ゼフィルス全25種類の内、未撮影はあと3種。1種は北海道や東北に分布しているため、来年以降に計画しており、今年は、残る2種を何とか撮りたいという思いがある。その1種が、ヒロオビミドリシジミだ。現地までの距離、天候、発生時期から一発勝負である!
三草山は、大阪府におけるヒロオビミドリシジミの唯一の生息地で、その一部に、自然の豊かさと生息する希少種の存在を保護する目的から大阪府自然環境保全条例に基づく、緑地環境保全地域に指定された「三草山ゼフィルスの森」がある。
「三草山ゼフィルスの森」は、公益財団法人「大阪みどりのトラスト協会」が地上権を設定しており、ナラガシワ林の育成(育苗、萌芽更新、受光伐、植樹)によるヒロオビミドリシジミの保護や蝶類の多様性確保のために下草の縞状刈り払いによる林内整備、不法採集防止のための巡視活動、観察会等による啓発等を行っている。勿論、採集は禁止だ。以前、採集による逮捕者も出ていると言う。
さて、当日は自宅出発時から、雨!。途中では土砂降りで、現地到着時も雨!!。しかし、降り続いていた雨も明け方には止み、朝5時の段階では晴れ間も覗いており、予報では、7時頃から晴れだ。雨のち晴れは、絶好の撮影日和。ヒロオビミドリシジミは、きっと下草に止まっているに違いない。早速、登山開始である。
棚田を抜け、かなり急勾配な山道を30分ほど登ると、たいへん美しいナラガシワの林「三草山ゼフィルスの森」に到着。果たして、14.48haのどこにいるのか?
山地性ゼフィルスは、ギャップ(林床まで光が差し込む隙間、空間)に集まるので、まずは、そう言った場所を探し、重点的に探蝶するも見つからない。7時半になると林内に朝日が差してきた。しかし、見つかるのは東京都内でもいる普通種のゼフィルスばかり。しばらくすると、2名が同じ様に探しにきたが、諦めて帰っていく。ここまできて手ぶらで帰るわけにはいかない。林内をいったりきたりしていると、さっきまで晴れていた空が曇り、霧雨が・・・天気予報の大ハズレ!
4時間探しまわっても肝心のヒロオビミドリシジミは見つからず、疲れきって林道に腰を下ろすと、何と目の前の下草に止まっているではないか!落ち着いて様々な角度から撮影。後は、開翅だ。お願いだから開いてくれ!1時間ほど待っていると、気持ちが通じたのか見事に全開。このヒロオビミドリシジミは、可哀そうに羽化不全で右後翅が伸びていない個体だ。自然界では、こうした羽化に失敗する個体がいるのも事実で、生き延びるのはたいへんなことだ。あまり飛ぶこともできない。随分と翅をバタつかせたのだろう、かなり擦れている。図鑑写真的には評価されないが、自然の厳しさゆえの生態写真として見ていただきたい。特徴である黄色味が強い金緑色の翅表も分かる。また晴れて日光が当たっていたら、この翅色も写せなかっただろう。
出会えたのは、この個体だけ。撮影後、感謝の念を込めて、そっと指に乗せて鳥等の外敵に見つからないよう茂みの中へ移動し、この場から引き揚げた。
ヒロオビミドリシジミは、初見初撮影の種で、当ブログのリスト「鱗翅目」で126種類目、全25種類のゼフィルスでは23種類目となる。
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.0 1/250秒 ISO 2000 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 9:53)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/50秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 9:12)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 9:15)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 10:09)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 2000 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 10:09)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 1600 +2/3EV(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 10:11)
ヒロオビミドリシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 1600(撮影地:大阪府豊能郡能勢町 2015.6.6 10:12)
こんにちは。雨の中を往復1,100キロとは驚きです。
最後に開翅が見られて良かったですね。
126種目の撮影はおめでとうございました。
多摩NTの住人様、こんばんは。
コメント頂きありがとうございます。
1種のチョウを撮るために1,100km、24時間という手間をかけました。以前、1種のトンボを撮るために、兵庫まで3回行きましたから、それに比べれば安近短ですが、この梅雨の時期、一発勝負でした。最後に撮影は叶いましたが、残念ながら翅の痛んだ個体。また来年に再挑戦したいと思います。