チョウとアリの関係

| コメント(6)

 早くも11月。愛車の具合が悪いため、8日に新車が納車されるまでは、撮影に出かけられない状況であるため、今回は、過去に撮影した昆虫から「チョウとアリの関係」についてまとめたいと思う。

 アリと関係を持つ昆虫は多いが、鱗翅目においては、シジミチョウ科の幼虫がアリと密接な関係を持っている。シジミチョウ科の幼虫はアリを誘引するための多くの特別な表皮性器官を持っており、現在、全世界シジミチョウ科の約75%の種がアリと関係を持ち、化学的、音響的、視覚的信号をアリに送り、アリの行動を利用してアリと関わり、アリの世界に入り込んでいると言われている。
 シジミチョウ科の幼虫は、分泌腺から出す分泌物をアリに与え、代わりにアリは、幼虫を捕食者や寄生蜂、寄生蝿類から守るという任意的共生関係であることが多く、特定のアリとの関係を持つものは多くはない。しかしながら、このような任意的共生関係に対して、特定の種と関わらないと成長不可能な絶対的共生関係、さらには寄生関係に到った種も見られる。
 日本では、好蟻性の種として39種が上げられ、これは日本産のシジミチョウ科の約56%にあたる。多くはアリと任意的共生関係にあり、ムラサキシジミやヤマトシジミ等は、巣外において来集するクロクサアリ、クロオオアリ、トビイロケアリ等と栄養共生関係を持っているが、キマダラルリツバメ、クロシジミ、ゴマシジミ、オオゴマシジミ、そしてムモンアカシジミの5種の幼虫においては、特定のアリの種や種群と強い関係を持ち、そのアリの巣内に蟻客として迎え入れられ、巣内で餌を確保しつつ育つ絶対的関係にあると言われている。
 これらの他に、ヒメシジミ、ミヤマシジミ、アサマシジミ等も同様に特定のアリの巣中に入ることが観察されており、アリと密接な関わりを持った生活をしているものと推定されている。
 ここでは、アリの巣内に入りアリとの関係の強い種である上記5種について、過去に撮影した写真とともに掲載したい。

キマダラルリツバメ

 キマダラルリツバメ(Spindasis takanonis)は、樹上営巣性のハリブトシリアゲアリの巣中で、アリから口移し給仕を受けて育つ。メスはハリブトシリアゲアリの行列や巣に近い樹皮上等に産卵し、卵から孵った1 齢幼虫はすぐにアリの巣中に入る。人工的に、ハリブトシリアゲアリと近縁でかつ同所的に生息するテラニシシリアゲアリの巣中に幼虫を入れると幼虫は攻撃を受け、アリに食べられてしまうという。(環境省RDB:準絶滅危惧)

IMG_3562.jpg

 

クロシジミ

 クロシジミ(Niphanda fusca)のメスは、寄主であるクロオオアリの存在を確認して産卵を行なう。2齢までは樹木の葉についているアブラムシやキジラミの出す液体成分を食べて育ち、3齢幼虫になるとアリに運ばれて巣中に入り、口移しで給餌を受けて育つ。本種がアリに与える分泌物には、4種の糖と7種のアミノ酸が含まれていることが判明している。(環境省RDB:絶滅危惧ⅠB類)

IMG_2755.jpg

 

ゴマシジミ

 ゴマシジミ(Maculinea teleius)は、3齢幼虫まではワレモコウを食べて育ち、4齢でシワクシケアリの巣内に入りアリの卵や幼虫を餌として食べて育つ。(環境省RDB:絶滅危惧ⅠA類)

IMG_3502.jpg

 

オオゴマシジミ

 オオゴマシジミ(Maculinea arionides)は、ゴマシジミ同様に二次的にアリの卵や幼虫を食べて育つように食性転換をした種と判断されている。シソ科のカメバヒキオコシやクロバナヒキオコシのつぼみを食べて育ち、3齢終期から4齢でシワクシケアリの巣内に入り卵や幼虫を餌として食べて育つ。(環境省RDB:準絶滅危惧)

IMG_3497.jpg

 

ムモンアカシジミ

 ムモンアカシジミ(Shirozua jonasi)のメスは、クサアリ類が活動し、かつクリオオアブラムシやオオワラジカイガラムシ等のアブラムシやカイガラムシ類が多く見られるクヌギ、コナラ、ミズナラ、クリ等に限って産卵を行なう。孵化した幼虫はアブラムシやカイガラムシの出す甘露を食べ、後にクヌギやコナラ等の芽に入る。終齢幼虫になるとクサアリ類の巣中や巣の周辺で蛹化する。(環境省RDB:記載なし)

IMG_2767.jpg

 

 アリと密接な関わりを持つこれらの種は、今日いずれも個体群密度が減っており、生息地が局所的であるため地域個体群の絶滅も危惧される種が多い。チョウとアリの詳細な生態を解明し、更には、食草と物理的生息環境をも含めた生態系全体を精査し、生態学的な研究を進めて保全対策を講じる事。更には、規制によりマニアが採集できなくする等の積極的な保護対策を講じて行かなければならない。

参考文献
寺山 守・丸山宗利,2007 日本産好蟻性動物仮目録 東京大学農学部 フィールド自然史博物館(海外学振)

コメント(6)

こんにちは。
チョウとアリは密接な関係があったんですね。これは全く知りませんでした。とても興味深く読ませていただきました。
シンポジウムのご成功をお祈りしています。

ごぶさたです。
とうとう新車買いましたか。
写真撮りに行きましょう。

こんばんは。
シジミチョウ科の幼虫とアリが密接な関係があるというのを
まったく知りませんでした。
珍しいシジミチョウではないのですが
庭や植物園で見かけるシジミチョウはどうなのかなと
思ってしまいます。
ムモンアカシジミ、以前見せて頂いたのかもしれませんが
覚えていませんでした。
綺麗なはっきりして黄色なのですね。
クヌギ、コナラ、ミズナラ、クリ等に産卵を行なうのでしたら
近くの植物園等見られそうなので見られたらと思います。

コメントする

アーカイブ

アイテム

  • IMG_3596.jpg
  • IMG_3595.jpg
  • IMG_3594.jpg
  • IMG_3593.jpg
  • IMG_3592.jpg
  • IMG_3591.jpg
  • IMG_3590.jpg
  • IMG_3589.jpg
  • IMG_3588.jpg
  • IMG_3587.jpg
Creative Commons License
このブログはクリエイティブ・コモンズでライセンスされています。

自然を愛し、自然をたいせつにする写真家です。
自然を愛する写真家
自然を愛する写真家バッジ

にほんブログ村 写真ブログ ネイチャーフォトへ
にほんブログ村

チャレンジ25キャンペーン
チャレンジ25宣言

写真表示

  1. 掲載写真は、クリックしますと全て拡大表示されます。
  2. ただし、HP容量の関係上、古い記事で写真が綺麗でないものは、写真が×マークになっており表示されません。
  3. 写真の著作権は古河義仁に帰属します。詳しくは「写真映像の貸出使用について」をご覧下さい。

写真の理念と昆虫リスト

最近のコメント

  • 購読する(Atom) atom
  • 購読する(RSS 1.0) rss
  • 購読する(RSS 2.0) rss