ゴマシジミ(Maculinea teleius)は、シジミチョウ科ゴマシジミ属(Maculinea属)に分類され、前述したオオゴマシジミと同属である。
ゴマシジミの生活史もオオゴマシジミ同様に特異で、東北地方以北はナガボノシロワレモコウに、それ以外はワレモコウのそれぞれ花穂に産卵する。孵化した幼虫はそれらの花穂を食べて(白山亜種等、高標高に生息するゴマシジミは、カライトソウも食している)秋に3齢まで成長する。4齢(終齢幼虫)になると食草から地上へ降り、シワクシケアリによって巣に運ばれてシワクシケアリの幼虫や蛹を餌にして越冬し、翌年の夏にアリの巣の出口付近で蛹化・羽化して地上に出るのである。
ゴマシジミは、北海道と本州、九州(四国では確認されていない)に分布するが、生息地は極めて局所的であり、生息地においても減少している場所が多い。
ゴマシジミは、寄主植物である「ワレモコウ」と寄主アリである「シワクシケアリ」の存在が不可欠で高い寄主特異性を示すが、1頭のゴマシジミの幼虫は、200個体以上のシワクシケアリを食べると言われており、ゴマシジミ個体群の維持にとっては、特にシワクシケアリの生息状態が極めて重要と言える。そのシワクシケアリの生息環境は、湿った土の存在が必要条件であり、乾燥化や植物群落の遷移が進むとシワクシケアリはいなくなり、結果としてゴマシジミも全滅してしまう。そのためには、「里山」の良好な維持管理が必要で、「里山」の放棄・放置は減少の原因の1つであると言える。
日本のみならず、ゴマシジミ属はヨーロッパにおいても生息域が急速に減少しており、特にアリオンゴマシジミ(Maculinea arion)においては、ヨーロッパ全体で危機に瀕しており、イギリスを除くアリオンゴマシジミが生息するすべての国で、減少の一途をたどっていると言われている。(イギリスでは1979年の絶滅の後、コーンウォル州とデボン州で新産地が見つかり、保全に成功している。)
日本国内では、ゴマシジミは以下の4亜種が生息するが、いずれも環境省RDBでは絶滅危惧種として選定している。
- ゴマシジミ北海道・東北亜種(Maculinea teleius ogumae)準絶滅危惧(NT)
- ゴマシジミ本州中部亜種(Maculinea teleius kazamoto)絶滅危惧ⅠA類(CR)
- ゴマシジミ八方尾根・白山亜種(Maculinea teleius hosonoi)絶滅危惧Ⅱ類(VU)
- ゴマシジミ中国・九州亜種(Maculinea teleius daisensis)絶滅危惧ⅠB類(EN)
さて、台風11号が西日本に接近しているにも関わらず、9日の午前中は曇りという予報を信じて、8日(金)の午後22時、今期4回目となる長野遠征に出発した。今回の目的は、ゴマシジミである。
現地に9日の午前1時着。駐車場で仮眠し5時から探索開始。初訪のため、まずはポイント探しであるが、生態と生息環境に関する知識と勘ですぐに見つけることができた。ワレモコウが群生する草地を覗くと、ワレモコウや葉に止まる絶滅危惧ⅠA類であるゴマシジミ本州中部亜種を発見。気温15℃。今にも雨が降り出しそうな空模様。どのゴマシジミもじっと止まっているだけである。朝日が差さないので、肝心の青い翅表は撮れそうにもない。とりあえず数枚撮影し、8時に引き上げることにした。
10日はあいにくの雨(台風)。愛車のオイル交換と点検整備に当てた。土曜日の夜を自宅で過ごし、布団で目覚める日曜日の朝は6月29日以来である・・・
ゴマシジミは、本年に予定した未撮影種の最後のチョウなので、是が非でも翅表を撮るべく、次の週末に再訪したいと思う。(お盆休みが欲しい!)
ゴマシジミは、採集者による乱獲も各地で問題になっている。自らは保全に協力することなく、保護・保全に対して勝手な持論を展開し、見つけたチョウをすべて殺して持ち去る採集者たち。仮に一人が1頭しか捕らなくても、百人くれば100頭いなくなるのだ。今や、「昆虫採集」は「自然破壊」と同義語である。
今回撮影に訪れた地区に生息するゴマシジミも、これまで県内外から来た多くの採集者によって乱獲されており、保護活動を進める地元住民からの要望を受けた松本市教育委員会は、平成25年6月20日に松本市の特別天然記念物に指定した。市文化財保護条例により、市の許可を得ない採集は禁止されている。
ゴマシジミは、初見初撮影の種で、当ブログのリスト「鱗翅目」で121種類目となる。
ゴマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F3.5 1/125秒 ISO 1000(撮影地:長野県松本市 2014.8.9)
ゴマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 1000(撮影地:長野県松本市 2014.8.9)
ゴマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 400(撮影地:長野県松本市 2014.8.9)
ゴマシジミの生息地風景(撮影地:長野県松本市 2014.8.9)
こんにちは。
やはり土曜日はお出掛けだったんですね。
私は、ランニング途中で雨に降られ、ずぶぬれで帰ってきました。
ゴマシジミの初撮影はおめでとうございます。
次は翅表が見られると良いですね。
多摩NTの住人様、こんばんは。
お盆休みもないので、貴重な週末。雨さえ降らなければ何とかなると思い、出かけてきました。
今週末が晴れることを、切に願います。
こんばんは。
オオゴマシジミに続いてゴマシジミの初見初撮影、
おめでとうございます。
ゴマシジミの成長の仕方は特異ですね。
説明をとても興味深く読ませて頂きました。
自然教育園で良く見ていた「ナガボノシロワレモコウ」が
東北以北ではゴマシジミの食草ということ知り、
次回自然教育園で見る時はこのゴマシジミのことを
思い出して見ることになりそうです。
このような特異なゴマシジミが生息し続けるのに
里山の保全が大事なのですね。
今週末、晴れだと良いですね。
granma様、こんばんは。コメントありがとうございます。
ホタルもそうですが、ゴマシジミも豊かな自然あっての昆虫なのです。
現地の自然環境の中に身を置くと、その大切さがよく分かりました。
ゴマシジミの翅裏は、写真のように地味ですが、翅表はオオゴマシジミのように
青色が美しいので、何とか撮りたいと思っております。