ムカシトンボは、2010年5月に静止している画像を撮影しているので、今回は、飛翔と産卵の撮影に挑戦した。
ムカシトンボ(Epiophlebia superstes)は、「生きた化石」と呼ばれている。中世代ジュラ紀の地層から化石として出土するトンボ類に形態的に似ており、進化がほとんど止まった状態で現存するため、そう呼ばれている。
日本特産種で北海道、本州(千葉県以外)、四国、九州に分布し、主に山間部の源流域に生息している。成虫になるのに6~7年かかり、東京では4月中旬頃に羽化する。
環境省RDBや東京都RDBに記載はないが、22道府県のRDBに絶滅危惧種として記載されている。
ムカシトンボ(Epiophlebia superstes)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2010.05.05)
さて、GW期間中の目標とした「シルビアシジミの春型」、「カタクリに止まるギフチョウ」、「ムカシトンボの産卵」の撮影。証拠程度ではあるが、シルビアシジミとギフチョウはクリア。残るはムカシトンボである。
GW後半は天候不順で、また10日(土)は出勤であったため、11日に決行することとなった。確実に撮るためにはムカシトンボの多産地が良いと考え、初めての場所ではあるが、秋川の支流の源流部を目指した。
6時半に支流の上流部に到着。林道脇に車を止めて、7時に徒歩で出発。2時間ほど歩くと、気温も上がり、ツマキチョウ、トラフシジミ、コツバメ、オナガアゲハ、ミヤマカラスアゲハが飛び始めたが、目的はムカシトンボ。他の昆虫は目で楽しむだけにして先を進む。源流域になってしばらくすると、太陽が差し込む上空が開けた空間があり、そこでカゲロウ等を捕食するために飛んでいるムカシトンボを何頭も確認できた。
昆虫を撮影しようとする場合、彼らの生息環境と生態を学ぶ必要がある。昆虫の行動を詳細に理解しなければ、生息地に行っても目的の写真は撮れない。また、現場では論文等の内容が本当かどうかを立証することもできる。
ムカシトンボの場合は、晴れで気温も高いと、午前8時頃からまずカゲロウ等の虫を捕食するため、目の高さから10mくらいの高さを飛びまわる。その後、若い個体は高い所を周回し、成熟個体は川面に降りてきて、メスが産卵に訪れそうな場所を移動しながら、水面から30cmくらいのところで時折り短いホバリングを行いながら飛ぶ。曇っていたり湿度の高い日は、川面には降りてはこない。
ムカシトンボが多数、捕食のために飛んでいるならば、近くにメスの産卵場所があるに違いない。川を見ながら、林道を登ったり下ったりするが、それらしい場所はなく、時間が経つにつれ飛んでいるムカシトンボも見当たらなくなってきた。
「もしかしたら」と思い、源流に流れ込む脇の小さな沢を登ってみることにした。すると、すぐにホバリングを行うオスを発見。およそ15分間隔くらいで、同じ場所に来るようだ。また、数頭のオスが入れ換わりで来るようで、オス同士が遭遇しても、どちらかが追い払うこともない。ムカシトンボは、自分のなわばりを持たないようである。
まずは飛翔の撮影だが、これがかなり難しい。1~2秒ほどの短いホバリングを行いながら忙しなく移動するので、ファインダーで追うのもピントを合わせるのも苦労する。それでも何とか見られる絵を撮ることができた。
次はメスの産卵の様子を収めたいのだが、メスがなかなか飛んでこない。オスの飛来間隔が広くなってきた昼過ぎ、諦めて帰ろうかと思い始めた時、1頭のムカシトンボが脚元をゆっくり飛びながら、大きい岩の向こうの茂みに降りた。メスである。見れば、柔らかい草の茎に産卵している。
メスは、下流からゆっくりと上流に移動しながら産卵に適した植物があると産卵する。急いでカメラを向けシャッターを切ったが、ピンボケ。その後、3回チャンスがあったが、どのメスも産卵の時間が短く、すぐに移動してしまう。
メスは、オスが頻繁に飛来しない、午前中早い時間や夕方近く、または曇りの日の方が、落ち着いて産卵するようだ。この日は、岩に足を取られ2回も転倒。疲れも感じてきたため、14時で撤退。源流域の沢筋でホバリングも含め4時間格闘したが、結局、産卵シーンは、綺麗に撮ることはできなかった。また、次の週末に、ダメならば来年に持ち越しである。
ムカシトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/200秒 ISO 3200(撮影地:東京都あきる野市 2014.5.11 11:43)
ムカシトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:東京都あきる野市 2014.5.11 11:46)
ムカシトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 1000(撮影地:東京都あきる野市 2014.5.11 11:46)
ムカシトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 3200(撮影地:東京都あきる野市 2014.5.11 12:14)
こんにちは。
しっかり調査し準備万端で、見事な写真が撮れましたね。
いつもながらご努力と研究熱心さに感服します。
先日、ジャコウアゲハらしきチョウを見かけ、少し追っかけましたが、近づくとすぐに飛び立って、一枚もシャッターが切れませんでした。素人には難しいです。
多摩NTの住人様、こんばんは。
昆虫ネタですが、コメント頂きありがとうございます。
チョウは、花の蜜を吸う時は、せわしなく移動するので、私も上手く撮れた経験がありません。ポピュラーな種であれば、すぐに諦めてしまいますが、「難しいけれど撮れそう」という微妙なものは、チャレンジ精神が掻き立てられて引き際に困ります。
このムカシトンボの場合は、目標でもあったため、8時間歩き、掲載の4枚を撮るだけで4時間もかかってしまいました。