今年は、「絶滅危惧種」をテーマの1つに掲げて昆虫の撮影を行ってきた。チョウとトンボが主であったが、様々な絶滅が危惧される種を観察し記録することができたので、ここで「絶滅危惧種」についてまとめておきたいと思う。
日本国内において絶滅が危惧される動植物については、環境省がレッドリストを作成・公表するとともに、これを基にしたレッドデータブック(RDB)を刊行している。環境省版レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)とは、日本に生息又は生育する野生生物について、専門家で構成される検討会が、生物学的観点から個々の種の絶滅の危険度を科学的・客観的に評価し、その結果をリストにまとめたものである。レッドリストへの掲載は、捕獲規制等の直接的な法的効果を伴うものではなく、社会への警鐘として広く社会に情報を提供することにより、様々な場面で多様な活用が図られるものとしている。故に「指定」ではなく、「掲載」や「選定」という言葉を使っている。
レッドリストでは、以下のようにカテゴリー(ランク)があり、3~5が絶滅のおそれのある種(絶滅危惧種)である。
- 絶滅(EX) (我が国ではすでに絶滅したと考えられる種)4種
- 野生絶滅(EW) (飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種)0種
- 絶滅危惧Ⅰ類 (CR+EN) (絶滅の危機に瀕している種)171種
- 絶滅危惧IA類(CR) (ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)65種
- 絶滅危惧IB類(EN) (IA類ほどではないが近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)106種
- 絶滅危惧II類 (VU) (絶滅の危険が増大している種)187種
- 準絶滅危惧種(NT)(現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種)353種
- 情報不足(DD)(評価するだけの情報が不足している種)153種
- 絶滅のおそれのある地域個体群 (LP)(地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの)2集団
環境省版レッドリストには、多くの昆虫がリストアップされているが、今回は、その中でもトンボ目・チョウ目に限り、私が撮影したものをまとめてみた。(ブログ内に掲載している種でも、証拠程度にしか撮れていない種は省いている。)
これら昆虫が著しく減少し、絶滅の危機に瀕している背景には、宅地開発や里山の放棄等の生息環境の破壊と悪化、外来生物による捕食や植生破壊が挙げられるが、マニアの採集・乱獲による影響も指摘されている。特にチョウ類においては、採集ツアーが企画され、各人が見つける限り何十頭も網で捕獲(乱獲)し持ち帰るのである。業者は標本として販売し、個人は単なる自己のコレクションとして箱内に並ぶ。条例によって保護しようとする地域も多いが、絶滅危惧種といっても生態系の一員であることを理解せずに、木を見て森を見ず、景観や植生等を含めた環境全体を保全することまでに至っておらず、結果として減少の一途を辿っている地区もある。これが現状なのである。
レッドリストは、環境省だけでなく各都道府県においても独自で作成しており、より多くの昆虫が姿を消しつつあることが分かる。
参照:日本のレッドデータ検索システム
尚、ホタル科では、「クメジマボタル」が絶滅危惧ⅠA類に、「コクロオバボタル」が絶滅危惧ⅠB類に、「ミヤコマドボタル」が準絶滅危惧種に掲載されている。「ゲンジボタル」や「ヘイケボタル」は、環境省版レッドリストには掲載がなく、各都道府県のレッドリストに掲載されている地域がある。
撮影した環境省版レッドリストの昆虫
- 絶滅危惧ⅠA類(CR)
- ベッコウトンボ(Libellula angelina)
- オオルリシジミ本州亜種(Shijimiaeoides divinus barine)
- 絶滅危惧ⅠB類(EN)
- オオセスジイトトンボ(Cercion plagiosum)
- オオモノサシトンボ(Copera tokyoensis)
- コバネアオイトトンボ(Lestes japonicus)
- マダラナニワトンボ(Sympetrum maculatum)
- オオキトンボ(Sympetrum uniforme)
- ヒメシロチョウ(Leptidea amurensis)
- ヤマキチョウ(Gonepteryx rhamni maxima)
- クロシジミ(Niphanda fusca)
- ミヤマシジミ(Plebejus argyrognomon praeterinsularis)
- ツマグロキチョウ(Niphanda fusca)
- シルビアシジミ(Zizina emelina)
- 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
- ハネビロエゾトンボ(Somatochlora clavata)
- ナニワトンボ(Sympetrum gracile)
- ギフチョウ(Luehdorfia japonica)
- チョウセンアカシジミ(Coreana raphaelis yamamotoi)
- ミヤマシロチョウ(Aporia hippia japonica)
- ルーミスシジミ(Panchala ganesa loomisi)
- 準絶滅危惧種(NT)
- ベニイトトンボ(Ceriagrion nipponicum)
- モートンイトトンボ(Mortonagrion selenion)
- グンバイトンボ(Platycnemis foliacea sasakii)
- アオハダトンボ(Calopteryx japonica)
- マダラヤンマ(Aeschna mixta soneharai)
- ネアカヨシヤンマ(Aeschnophlebia anisoptera)
- アオヤンマ(Aeschnophlebia longistigma)
- ヒメギフチョウ本州亜種(Luehdorfia puziloi inexpecta)
- ヒメシジミ本州・九州亜種(Plebejus argus micrargus)
- クモマツマキチョウ北アルプス・戸隠亜種(Anthocharis cardamines isshikii)
- キマダラルリツバメ(Spindasis takanonis)
- クロツバメシジミ東日本亜種(Tongeia fischeri japonica)
- ギンイチモンジセセリ(Leptalina unicolor)
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絶滅危惧ⅠA類(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い種
ベッコウトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:静岡県 2012.4.29)
オオルリシジミ(本州亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 200(撮影地:長野県 2013.05.26)
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絶滅危惧ⅠB類(EN)
IA類ほどではないが近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種
オオセスジイトトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 400 (撮影地:千葉県 2011.6.12)
オオモノサシトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/640秒 ISO 3200 (撮影地:千葉県 2011.6.12)
コバネアオイトトンボ
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F3.5 1/200秒 ISO 200 ストロボ使用(撮影地:静岡県 2011.10.01)
マダラナニワトンボ
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:福島県 2011.10.08)
オオキトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 2500(撮影地:兵庫県 2013.11.02)
ヒメシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640(撮影地:山梨県 2013.08.11)
ヤマキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +1EV(撮影地:山梨県 2013.08.27)
クロシジミ
Canon EOS 7D / SIGMA MACRO 50mm F2.8 EX DG
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 200(撮影地:静岡県 2012.08.05)
ミヤマシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/160秒 ISO 250 +1EV(撮影地:栃木県 2013.09.28)
ツマグロキチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/400秒 ISO 200 +1EV(撮影地:栃木県 2013.09.28)
シルビアシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2013.10.13)
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絶滅危惧Ⅱ類(VU)
絶滅の危険が増大している種
ハネビロエゾトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F9.0 1/20秒 ISO 400 -1 2/3EV ストロボ使用(撮影地:千葉県 2012.08.04)
ナニワトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 3200 -2/3EV(撮影地:兵庫県 2013.09.14)
ギフチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:新潟県 2013.05.18)
チョウセンアカシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 1600(撮影地: 福島県 2012.06.30)
ミヤマシロチョウ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 400 +2/3EV(撮影地:群馬県 2013.07.13)
ルーミスシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F7.1 1/320秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2013.03.09)
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準絶滅危惧種(NT)
現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
ベニイトトンボ
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 1600(撮影地:静岡県 2011.8.27)
モートンイトトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400 ストロボ発光 (撮影地:東京都 2011.7.2)
グンバイトンボ
Canon EOS 5D Mark2 / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F6.3 1/80秒 ISO 320(撮影地:岐阜県 2012.06.23)
アオハダトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 500(撮影地:群馬県 2012.06.24)
マダラヤンマ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 1000 -2/3EV(撮影地:栃木県 2013.09.28)
ネアカヨシヤンマ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F9.0 1/4秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:千葉県 2012.08.04)
アオヤンマ
Canon EOS 7D / EF100-300mm f/4.5-5.6 USM
絞り優先AE F8.0 1/500秒 ISO 200(撮影地:千葉県 2012.06.02)
ヒメギフチョウ(本州亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 200(撮影地:群馬県 2012.5.13)
ヒメシジミ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 800 -1/3EV(撮影地:長野県諏訪市霧ヶ峰 2014.7.12)
クモマツマキチョウ(北アルプス・戸隠亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 250 +1/3EV(撮影地:富山県 2013.06.01)
キマダラルリツバメ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 500(撮影地:福島県 2012.06.30)
クロツバメシジミ(東日本亜種)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/125秒 ISO 400 +1EV(撮影地:長野県 2013.09.23)
ギンイチモンジセセリ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 200(撮影地:東京都 2012.4.29)
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来年は、上記に掲載の種の一部撮り直しと、下に記す未撮影の絶滅危惧種を撮りたいと思う。
- 絶滅危惧ⅠA類(CR)
- ゴマシジミ本州中部亜種(Maculinea teleius kazamoto)
- 絶滅危惧ⅠB類(EN)
- ヒヌマイトトンボ(Mortonagrion hirosei)
- コクロオバボタル(Lucidina okadai)
- アサマシジミ中部低地帯亜種(Plebejus subsolanus yaginus)
- 絶滅危惧Ⅱ類(VU)
- ナゴヤサナエ(Stylurus nagoyanus)
- メガネサナエ(Stylurus oculatus)
- ゲンゴロウ(Cybister japonicus)
- アサマシジミ中部高地帯亜種(Plebejus subsolanus yarigadakeanus)
- オオイチモンジ(Limenitis populi jezoensis)
- 準絶滅危惧種(NT)
- キイロヤマトンボ(Macromia daimoji)
- ミヤマモンキチョウ浅間山系亜種(Colias palaeno aias)
- オオゴマシジミ(Maculinea arionides takamukui)
- オオムラサキ(Sasakia charonda charonda)
こんにちは。
素晴らしい研究成果ですね。
サラリーマン稼業をしながら、これだけのものを作られているというのは驚きです。
これからもコレクションが増えるのが楽しみですが、そもそも“絶滅危惧”というリストから外れることを願いたいです。
こんばんは。
多摩NTの住人様の膨大な植物記の中にも、絶滅危惧種が沢山あると思います。
年々、リストの数が増えたり、ランクが上がる種が多いのですが、おっしゃるように、それは悲しいことです。
絶滅を食い止めることができればよいのですが、まずはこうしてその姿を紹介し、多くの方々に興味をもっていただくことも必要だと思っております。
こんにちは、
絶滅危惧種の昆虫を沢山撮影されたのですね。
撮影された他にもあると思うと、自然環境の破壊が
色々な所で進んでいるのでしょうね。
植物なら完全とはいかないまでもある程度保護することが
出来ますけれど、昆虫類は難しいのでしょう。
日本は狭い国土で人口が多いので宅地開発が進むのでしょうが
必要以上の開発や老化していく農家の人達の里山の放棄等を
検討する機関があって食い止められると良いですね。
(すでにあるとは思うのですが・・・)
granma様、こんばんは。
かつては沢山見られた種が環境悪化や乱獲によって姿を消しつつあります。
マニアの採集を阻止すると同時に、彼らの生態を理解して自然環境全体を保全しなければ絶滅してしまうかもしれません。