里山の雑木林でエノキの根本に積もっている落ち葉を1枚1枚丁寧に裏返していくと、日本の国蝶オオムラサキの幼虫が越冬している姿を見ることができる。
卵から孵化した幼虫は樹上で成長・脱皮を繰り返し年内に4齢に達し、秋に葉が枯れて落ちる頃、幹を降りて落ち葉の裏にくっついて厳しい冬を越す。冬の休眠は環境条件、特に日長(1日24時間のうちの昼間の時間の長さ)によって決定されることが明らかにされている。1日の昼間の時間がある限界より短くなる(短日条件)と、休眠に入る。おもしろいことに、休眠に入る前に体色は緑色から褐色に変わり、休眠場所の落葉の色と見分けがつかなくなる。仮に、人為的に長日条件に置くと、休眠は回避されてそのまま年内に蛹となってしまう。
ところで、長日条件によって育った幼虫には5齢で蛹となる個体と6齢を経て蛹となる個体とが混在する。どちらの齢で蛹となるかは、5齢脱皮時の幼虫の大きさで決まると言われている。すなわち、幼虫の頭の幅が4.5 、脱皮時の体重が250~300mg以下の場合は6齢になるが、それ以上では6齢が省略され蛹となるようである。オオムラサキの発育のもう一つの特徴は夏に起こる3齢幼虫の発育遅延にある。気温が高いにもかかわらず、長日条件では何故か幼虫は大変ゆっくりと成長する。これは休眠齢期を4齢に同調させるための調節機構と考えられている。
北海道や東北の北の個体群ではこの夏の発育遅延はほとんど見られず、休眠までの期間が短く、休眠齢期も3~4齢だが、九州などの南の個体群では発育遅延が強く、休眠までの期間も長く、休眠齢期も4~5齢。このような地理的差異は両者の幼虫を同一条件で飼育した場合でも生じるので、環境の違いに対応した遺伝的変異が基礎になっていると考えられている。
Canon EOS 5D Mark II / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
Canon マクロツインライトMT-24EX E-TTL / 絞り優先AE 1/60秒 F6.3 ISO200
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